一面鏡

□嘘つきのいうこと
1ページ/2ページ

安直な言葉ばかりを欲し貴方が延々読み上げる書状に欠伸ばかり漏らす私は本当に貴方が欲しいものなど何一つ理解していない。
 安易な会話の中一つの単語を拾っては悦ぶ。ただ勝手な数の音を拾ってつなげて意味を持たすのと同等の行為。貴方が欲したのは意思を持つ擦り切れた言葉。あいにくと、二束三文のワゴンの中私はもう見失ってしまった。だってナイトガウン色のマニキュアに、赤く光るエナメルの指輪は似合わない。笑いあえないなら玩具は空しく転がるだけ。ただ黄色い電灯が願掛けのようにつけっぱなしにされている。
 沈黙の中に真実があるのならそんなものに興味はありません。芽も出ぬ営みに支えられた愛など虚像です。ならば、虐めて慰めて叱って褒めてくれる貴方が書き上げた筋書きに、乗っかる以外の道があるでしょうか。見て見ぬふりに気付かぬ真似をして、自己満足に浸っていたらじき開幕の時間です。そうしたら小指だけ繋いで、私の六センチばかりの小指と貴方の身体に巻きつく小指を絡めて、歩けるだけ歩いてみましょう。
 そんな私に、無い言葉に憧れることも無い感情に焦がれることも無意味だ常に昔の私を分かりきった母親のような顔で一番好きというくせにと貴方は言う、どこにも残っていなかった感情と涙と、人のものばかりの残滓。本当は言葉なんて聞かず空気なんて読まず貴方なんか見ずに、意味なんてたいそうな意味なんてなんにも無いんだってこの薄汚い小娘にこの生々しくて灰色の街で何を言うのだって、ちゃんと知れたらどんなにいいでしょうと言ったのは果たしてどちらだったのか。無意味にトレースを繰り返しオリジナルを消していたらいつかは生まれ変われると思ったのだろうか、どうせヒトデナシの癖して。
 飛び立つ瞬間が一番孤独だったなら、今貴方は何と一緒にいる? 変わらないじゃないか。相変わらず空っぽの脹れた腹を持て余して歌っている。黄ばんだ皮膚に隠されたぬめぬめした緑のうろこのすぐ下にあるぶよぶよした脂肪を着た赤茶のこびりついた骨は人間の形をしている。
スピーカーから町中に響き渡る媚と純情で構成された甲高い啜り泣きを一通り聞き終えた後、お得意の大きなため息をついて貴方は言った、私は貴方の親友で恋人でお兄さんでお母さんで賢者で神様でなければならないんだね。それらは貴方の代名詞であったから、私にはそのどこがいけないのかなど、到底理解できなかったしその台詞をカセットレコーダに収めるだけで満足したから、もうテープは押入れの奥で出してくるのも面倒だ。
貴方の複製である、ただし私を殺してくれる子供を欲しがる私(私には帰る家がある)といつまでも居もしない母親を求めてやまない貴方(ただいまをただ言いたがっている)と望んでいるものは一緒らしい。貴方が呟くのを聞いたから、私は子宮を閉ざして貴方のお腹にご飯を運ぶ。気付いているのならやめてよ。安定した曲線と対照的にでこぼこした内側から貴方の貴方に優しい母親が叫んで、耳を閉ざせない貴方はヘッドフォンから溢れる嘲笑に、嫌々ながら意識を向ける。そういえばそれが唯一の共通点。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ