花の栞

□ココロ リラ色
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でもね、今まで出会ったどんな人よりも優しくてキレイで熱い心を持った君に、ボクはいつのまにかひかれていたんだ。

君はボクの気持ちに気付かなかったけど、ボクは真っすぐに目標を目指して走る男の子らしい君にひかれたのだから、それで良いと思ってる。

でも、いつか は…。

君と出会った場所…君とスピアーの群れに追われて走った林道を抜けて、穏やかに揺れる湖を臨む畔に立った。

淋しく感じるのは、この風景に君がいないから。
君がここで過ごしたのは、ほんの一瞬のはずなのに…。それだけ、ボクにとって君の存在が大きいって事なのかな。

優しく歌う草花と水の青い薫りに包まれて、君とその仲間達と過ごしたここから、君やヘイガニと泳いだ湖を眺めていると、湖面は沈み始めた太陽の光を射つし出した。オレンジ色に染まっていく湖のきらめきに、ボクは右手をかざしてみる。
あの日夕焼けの中で、君の健闘と旅の無事を祈って交わした別れの握手。君の暖かな力強い掌の感触が、胸の高鳴りとともによみがえる。

ただ傍で もう一度君の笑顔を見たい。
元気な声の聞ける距離にいきたい。

そんな願いが、今のボクが幸せになれるイチバンの『夢』。
それを想う時、多分自然に頬が緩んでるんじゃないかと思う。

「ね、いつかボクも君と一緒に、旅をしてみたいよ…。」

目を閉じて、届かない想いを背中から抜けてゆく夕暮れの風に乗せて、ボクは君の温もりの名残を抱き締めた。


切なさよりも温かなこの気持ちはきっと、ボクに訪れた初めての甘い花。

いつか伝える勇気が出せたなら、君の胸にも咲いてほしいな。


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