*retsu-go*

□願うはただひとつ
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そんな友人に、エーリッヒは徐にポケットから取り出した一通の封筒を、静かに差し出した。
見間違うはずもなく、それは今夜行われる誕生日会の招待状だったが、クシャクシャに皺の寄っている状態にシュミットの眉が潜められた途端。
驚いた声に続いて、どうして持ってるんだっ?と尋ねてきたのへ、エーリッヒはおば様から貰ったんですと答えた。

「ゴミ箱に入っていたのを拾ったって」
「〜〜〜〜っ…!何でそんなことまで言うんだよ」

決して相手に渡ることはないのだと思い、捨てたというのに…。
手で顔を覆い、唸り声をあげたシュミットは、エーリッヒからソレを取ろうと手を伸ばす。
だが、空を切っただけに過ぎず、シュミットの瞳が怪訝そうに上向く。

「どうして返さないといけないんですか?…コレって僕のなんでしょう?」
「それはそうだが…。クシャクシャだし、第一ゴミ箱に捨てていたヤツだぞ?どうしても欲しいなら新しいのをやるから」
「僕はコレが欲しいんです。だから、コレ以外のカードは受け取りたくありません」

頑として渡そうとしない相手にシュミットは小さく苦笑すると、判ったからと頷き。
そうして相手から受け取ったカードの皺を出来るだけ伸ばした後、窺うような視線でもってソレを差し出した。

「エーリッヒ。…誘うのが遅くなってしまったが……その、俺の誕生日を一緒に祝ってくれないか…?」

言えなかった言葉を、渡せなかった手紙に乗せて伝えたシュミットに。
エーリッヒは、はい、と答えながらカードを受け取ると、嬉しそうに微笑んだ。



「シュミット、そろそろパーティーに行きませんか?」
「あ。ちょっと待て、エーリッヒ」

何とか説得に成功し、シュミットの重い腰を上げさせたエーリッヒは、廊下へと向かいかけた脚を、そんな風に呼び止められる。
だが振り返った先で、クローゼットからクリーニング済みのタキシードを取り出しているシュミットの姿を見つけ、慌てたように制止の声をかけた。

「せっかくのパーティーなんだ。俺の服を貸してやるから着替えろ、エーリッヒ」
「い、良いですよ、そんな…!あ、この恰好がダメなら、パーティーが終わるまでココで待ってますから…っ」
「ダメだ。ま、どうしても嫌なら、別に着なくても良いけどな。その代わり、俺も今夜のパーティーには出ない」
「え…っ!?」

どうする?と尋ねてくる相手から窓の外――敷地内に建てられた、パーティーの会場代わりになっている離れから漏れている明かりへと視線を移したエーリッヒは、深い溜息を零す。
そうして再びシュミットへと向き直ると、ニッコリと微笑んだ幼馴染の顔と、その手に持たれたタキシードとを見比べ、小さく肩を落とした。

「大人しくソレを着ますから、一緒にパーティーへ行きましょう」

と服を受け取るべく、手を差し出したのだった。



「なぁ、本当に行くのか?」
「貴方が言ったんでしょ?僕がコレを着れば、出るって」

それはそうなんだが…と唸り声をあげた親友に、エーリッヒはシャツのボタンを留めながら苦笑する。

「だが本当に楽しくも何ともないんだぞ?俺としては、」
「駄目です。それにおば様とも約束したんですから。貴方を連れてくるって」

先とはまったく正反対の主張をしている自分たちに気付き、クスリと笑ったエーリッヒの口から、不意に困ったような声が零れる。

「あれ…?なんか、…」
「待て、エーリッヒ。後ろのベルトが捩れてる」

スボンを吊っているベルトが背中の辺りで捩れているのを見つけ、シュミットはエーリッヒの後ろへ立つと、ベルトを指で摘んだ。
恥ずかしそうに、スミマセンと呟いたエーリッヒに、シュミットはベルトを直してあげながら、幾分重たそうに口を開く。

「エーリッヒ、あのさ…」
「何ですか?」
「その…今回は色々とあったが、また、来てくれるか?来年も…」
「良いですけど、…招待状は早目に下さいね?」
「判ってるよっ」

悔しそうに叫ぶ友人を肩越しに窺ったエーリッヒは、その顔がコレ以上ないほど真っ赤に染まっているのを目にし、クスクスと笑い声を零すのだった―――




*END*
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