*gundam-oo*

□淡色の焔
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【淡色の焔】




ガシャーン!!


訓練の合間、僅かな休息の時間を食堂で過ごす者は少なくない。
ちょうど昼食時ということもあってか、普段はガランとした殺風景な室内も、今は大勢の兵士たちでごった返していた。

そんな中。
冒頭の――陶器の転がる音が派手に響き、続いて野太い声が聞こえると、辺りは一瞬にして静まり返る。

「もう一度言ってみろッ」
「………」

周囲の視線が集まるのも気にせず、男は相手の胸倉を掴みあげると、キツク睨み付けた。
だが首を締め付けられたにもかかわらず、眉一つ動かさない相手の反応に男の怒りがさらに強くなっていく。

「マーチス…!」

肩幅も広く、ガタイの良い男と違い、相手は従軍するには幼すぎるのではないかという印象を抱かずにはいられない少年で。
もしも軍服を身に纏っていなければ、子供に言い掛かりをつけ、絡んでいるゴロツキ…という図にさえ見えてしまう。

そんな心情心理が働いたのかは不明だが、後ろから男の暴挙を止める声がかかる。
だがマーチスと呼ばれた男は肩越しに相手を一瞥しただけで、再び少年へとキツイ視線を向けた。

「…良いか。俺達は自分の腕に誇りをかけて、この仕事をやってるんだ。テメエの演習が上手くいかなかった理由を整備のせいにするんじゃねぇよ!」
「………」
「マーチス、もう止せって。それ以上は―――」
「お前は黙ってろ。いくらパイロットが偉くてもなぁ、俺達がいなけりゃテメエなんざタダのクソガキなんだよっ」

顔をギリギリまで引き寄せて吠えるマーチスに、少年はひとつ息を吐く。

―――と、次の瞬間。

相手の手を払い退けたかと思うと、ドコにそんな力があるのかという荒業で、マーチスの身体を投げ飛ばしていた。
テーブルを二つほど巻き込んでのソレに、途端、トバッチリを受けた兵士たちから怒りの声が上げる。

「〜〜ッ痛…テメェ、…」
「あんたたちの腕に不満を言うつもりはない。だが今日の演習で機体の動きが鈍くなったのは整備不良のせいだと、演習後のチェックでも報告されているのが事実だ」
「……ッ…!」
「自分の腕に驕れるのは勝手だが、コッチだって 命を懸けてるんだ。そういうことは、せめて最低限の仕事をしてから言えよ」

崩れた襟元もそのままに、少年は胸倉を掴まれた際に落としてしまった食器を片し、ドアへと向かう。
だが自分への罵声が聞こえたのと同時、プシュッと音を立てて開いた扉の向こうへと脚を踏み出した瞬間。
横から飛んできた手に頭をチョップされ、少年の顔が苦虫を潰したような表情に変わる。

「やりすぎだ、刹那」
「……俺は事実を言っただけだ」

諌めるようで、だがその実、瞳は呆れと苦笑の色を浮かべていて。
八つ歳の離れたチームメイトのそんな視線から顔を背けると、少年――刹那は不満げな表情を浮かべた。

知り合ってまだ半月も経っていないが、何かと理由をつけては世話を焼いてくるこの男――ロックオンが刹那は苦手で仕方がなかった。
チームを預かるリーダーとして、また年長者としてメンバーの面倒をみようとするのは判るが…
元々、他人と馴れ合う性格でない刹那にとって、それは“小さな親切大きなお世話”でしかなく。
そのせいか、返す反応といえば決まって無愛想なモノばかりだった。

今回もまた、例に漏れずそんな反応を示した刹那は、だが立ち去ろうと踵を返しかけた視界の端で、不意に捉えたロックオンの表情に思わず脚を止めてしまう。

―――…なんだ、コレ…

毎日顔を合わせ、相手の顔など見慣れているはずなのに、向けられた瞳があまりに優しくて。
気がつけば、鼓動は不規則なリズムを刻み、頬の辺りなど血がたぎっているのではないかと疑うほど熱を帯びていく。

だが、初めて覚えるそんな感覚に心乱され、激しく戸惑おうとも、目の前の青年がソレに気付くわけもなく…。
ロックオンはいつもの調子で刹那の肩を引き寄せると、ダークグレーの髪をくしゃくしゃと掻き回した。

「ちょ、何す…っ」
「それはコッチのセリフだ。人が真面目な話をしてるっていうのに…。今、他の事を考えていただろ」
「べ、別に何も」
「嘘だな」

刹那の言葉をすぐさま否定すると、ロックオンは相手の耳へと手を伸ばす。

「お前が嘘を吐いてる時は、必ずココが真っ赤になるからな。…知らなかったのか?」
「…ッ!コレは、アンタが、…」
「………俺が、何だ?」

刹那は口にしかけた言葉を咄嗟に呑み込むと、何でもないとだけ告げて、黙り込んでしまう。
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