*theme*

□果てないのは欲望ばかりで
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【果てないのは欲望ばかりで】




風になびく、プラチナの髪。
伏せた睫毛の隙間から覗くのは、澄んだ蒼。
触れると吸い付きそうな肌は、きめ細かな小麦色で。
柔らかく微笑む姿を見ていると、ココがどこかも忘れて抱きしめたくなってしまう。



「―――…ト、シュミット…?」

目の前でひらりと掌を振られ、シュミットは瞬きを数回した後、付いていた頬杖を解くと、飛んでいた意識を現実へと引き戻した。

「あの、どこか解りにくい所でも…」
「いや…。逆に、あまりに教え方が上手いんで、見惚れていたんだ」

手元のノートを見直すエーリッヒにクスリと笑い、そう告げると。
案の定。
気恥ずかしそうに、けれど嬉しそうに微笑んだ相手に、シュミットの口許も自然と笑みが深くなる。


エーリッヒとシュミットが二人揃って図書館へと脚を運んだのは、今から1時間ほど前のことである。
いくら頭脳明晰で、常に学年トップの成績をとってきたと言っても、それは本国ドイツでのこと。
せっかく日本にいるのだからと、履修科目に日本語を追加されたのが運の尽きとでもいうべきか、その複雑な文法表現に頭を悩ませている生徒がほとんどであった。
それはこの二人も例外ではなく、少しばかり滞在期間の長いエーリッヒの方がシュミットよりもデキルという程度で。
そんな少年二人が、なぜに休日の午後を図書館で過ごしているのかというと、休み明けに小テストが行われるからに過ぎなかった。


「それよりエーリッヒ。少し休憩でもしないか?」

再び机に向かおうとする親友へそんな提案を持ち掛けると、シュミットは相手の返事も聞かず立ち上がる。
それを見上げ、困ったように苦笑したエーリッヒは、広げていた勉強道具一式を片付けると、

「じゃあ、あちらにラウンジがありますから、そこで休憩にしませんか?」

と、シュミットを促し、図書館を後にした。


***


「えっと…コーヒーで良いですか?」

中央のテーブルに座したシュミットの横を通り過ぎ、その奥に数台設置された自販機へと向かったエーリッヒは、ジーンズのポケットから財布を取り出す。
そうしてコインを入れながら尋ねた質問に、お前に任せる、という応えを背中で聞くと、目当てのボタンを押した。
かこっ、と紙コップが落ちてきて、コーヒーが注がれていく。
その様子を眺めながら、自分の分を選んでいると―――…不意に。
背後から回ってきた腕にぎゅっと抱きしめられ、エーリッヒは反射的にビクリと肩を震わせた。

「…キス、しないか?」

いきなり何を…
そう口にしかけた声は、だが耳元で囁かれたそんな台詞に、音にすることなく消えてしまう。

「部屋に戻るまでは、と思っていたが、…もう我慢できそうにないんだ」
「あの、ちょ、……ッ!?」

ちょうど相手の頭がある、首と肩が交差した辺りに、柔らかい感触があたったかと思うと、ちゅっ、と微かな音が耳に届き、エーリッヒは途端に首まで赤くする。

「ま、待って下さいっ!あああの、…」

そうして気がつけば、いつの間にか自販機を背に、正面から向き合う形へと変わっている自分たちの態勢に、思わずエーリッヒの顔が強張った笑みを浮かべる。

「何だ?」
「え、えっと…その……今は休憩中で、まだ勉強の続きも残ってますし…」

それに…と、エーリッヒは視線を泳がせながら先を続ける。

「約束が、違います…」
「…。部屋以外ではしないっていうアレのことか…?」

それはシュミットたちが日本へと来た直後のこと。
一波乱あったものの、何とかヨリを戻した二人だったが、その時の衝動で人目も憚らずキスをしてしまい、それが原因で再び仲がこじれたという出来事は、まだ記憶に新しい。
“部屋以外で”とは仲直りの際、あんな思いは一度で充分ですと告げたエーリッヒから出された、唯一の条件だった。

コクコク、と必死に頷くエーリッヒに、けれどシュミットは人の悪い笑みでにっこりと笑ってみせる。

「だがそれは、他人の目を気にしてのことだろう?あいにくとココには、俺とお前以外に誰もいないんだから、そんなコト気にする必要なんてないだろう」

何か間違ったことを言っているか?
息がかかりそうな距離で、そこまで言われてしまうと、口ではシュミットに勝てた試しのないエーリッヒに勝ち目など望めず。
残された道はといえば、紅くなった顔を隠すように俯くことぐらいだった。

「そのままだと、いつまで経ってもキスができないだろう?」

苦笑を堪えながら、顎にかけた指先で上向かせると、途端。
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