*theme*

□いつかの自分の真似を〜
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【いつかの自分の真似をしようとした、できない事ぐらいわかってるけど】




この想いに気付くまで
知らなかった。
お前に触れるのが、こんなにも怖いことなんて―――…。



乾いた音を立てて、見事リングに入ったボールに、場内がワアァ…という歓声に包まれる。
タイムリミットを告げる笛がなったのは、逆転優勝へとチームを導いた少年へとチームメイトたちが駆け寄っていく最中だった。


「お疲れさん!」

そんな声とともに投げられたタオルを受け取ると、そっちはどうでした?と僅か弾んだ息を整えながら尋ねた。

「悔しいが、夕食のデザートは食べられそうにないな…」

あぁ、俺の愛しいプリンちゃんっ!!
と天を仰ぎ嘆くアドルフに、エーリッヒは苦笑を浮かべる。

「それに比べてお前はいいよな、エーリッヒ。リーダーの命令通り、バスケの試合で優勝したんだから。」

***

それは試験も終わり、後は春の訪れを待つだけとなった学校内の、とある教室で起こった。

「ねぇねぇ。明日の球技大会、エーリッヒたちは何に出るの?」

ミーティングも終わり、さて寮へ帰ろうかと帰宅の準備を始めていたメンバーは、ミハエルの声にぴたりと手を止めた。

「僕はバスケットですよ」
とは、首にマフラーを巻きながら答えたエーリッヒ。

「俺はヘスラーと一緒で、サッカーに」
アドルフは脇に立つヘスラーに、ゴールを入れさせたら二軍に降格だからな、と洒落にしてはキツイ激励を送る。

そうして皆の視線が集まる中、背中にどんよりと重い空気を背負いながら席を立ったシュミットは、無言で部屋から立ち去ってしまう。
そんなチームメイトに、「シュミットのケチ〜」と教えてくれなかったことへの不満を口にしたミハエルを、エーリッヒが苦笑混じりに宥めの言葉をかける。

「意地悪で教えないんじゃないんですよ。ただ、今回はちょっとワケありで…」

だが口を尖らせた少年に、エーリッヒの苦笑がさらに深くなっていく。

「シュミットのヤツ、種目決めをしている時にボーッとしてたみたいで、残った種目に無理矢理決められたんですよ」
「ちょ、アドルフ…っ!」

本人が言いたがらなかったんですから、と止めに入ったエーリッヒを、どうせ明日になったら判るんだし、の一言で押しのけ。
そうして告げた種目はといえば、バレーボール。

「なんだ。別に隠すような、変な競技じゃないんだ」

それなのに何で、と尋ねた少年にアドルフはいっそ清々しいくらいの笑顔でこう続けたのである。

「それがアイツ、バレーだけは空っきしダメなんです」
と。

そんな話に食いつかないはずのないアイゼンヴォルフの現リーダーは、期待を裏切ることなく満面の笑みを浮かべると、あのさぁと口を開き。

「せっかくだから、自分の出る種目で一位を取れなかったら罰ゲームってことにしない?ていうか、もう決定したから」

リーダー命令だから当然不参加はナシだよ!
最後にウインクをしながらそう付け加えられても、その場の凍った空気を和ませる力はなくて。
何とか立ち直ったエーリッヒの“お願い”によって、罰ゲームの内容が「夕食のデザートをリーダーにあげる」という無難なモノで済んだのを、この際喜ぶべきなのかどうか…。

***

「――…そういえばバレーの試合って、まだあってるんでしょうか?」

キョロキョロと視線を巡らせた先で、タイミングよく上げられたボールが目に入り、エーリッヒはまだなお悔しそうに嘆いている友人とともに、そちらへと脚を向かわせた。


「今度こそ拾えよ、シュミット!」

人垣を擦り抜け、応援ベンチへと二人が辿り着くと、コートからそんな声が飛んでくる。
振り向いた先には、相手コートから飛んできたボールを正面に捉らえたシュミットの姿。
思わず声援を送っていたエーリッヒだが、突然背後から抱き着かれて、驚きの声をあげたのと同時に。
ガンッという激しい音が、体育館内に響き渡ったのだった―――…。


***


「…大丈夫か?」

頭上から降ってきた柔らかい声に、途切れていた意識がフッと繋がる。
エーリッヒは瞬きを二度、三度と繰り返すと、あれ?と不思議そうな表情をした。

「ココ、…」
「保健室だ。お前、軽い脳震盪を起こして、今まで気を失ってたんだよ」

額に乗せられたタオルに手を翳しながら、いまいち状況の飲み込めていないエーリッヒは、はぁ…と何とも頼りない声を零す。
シュミットはそれを居心地の悪そうな表情で眺め、だから…と再度口を開いた。
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