らき☆すた【短編】1号館

□不器用な私達
1ページ/1ページ

「もし…」
てっきり寝ていると思っていた友人の声に、私は抱き締めていた腕の中へと視線を落とした。
「明日、地球が終るとしたら…どうする?」
「今日は随分突拍子ないわね」
質問には答えずに、私を見上げるようしているこなたの頭を撫でる。
「答えてよ」
怒っているような、でも完璧に拗ねている口調で私の返事を急かすこなたに、私ははぁと溜め息をついた。
「参考までに、アンタの答え教えなさいよ」
どうせこうしてベッドにまで積んである漫画やらゲームをするーとかだろう。
コイツは地球最後の日!!なんて世界中が騒いでいてもそんなのお構いなしに好きなことしそうなタイプだ。
「私は…………かがみといる」
「へ?」
意外な言葉に驚いたせいか呼吸したとき、酸素が変なとこに入った。
どんな顔をして言っているんだろうと、視線を下ろしたけどこなたも顔を私の胸らへんに押し付けているせいで全く表情が見えない。
まぁ部屋自体真っ暗なわけで、顔を上げていても表情は分からないかもしれないけど。
……からかっているんだろうか。
いや、からかうならもっとわざとらしく言うはずだ。
いつも学校でするよなあのニヤニヤとした猫口で。
じゃあ、これは…
「こ、こなた?」
なんだかよく分からないけど無性に恥ずかしくなってしまった私はこなたの名前を呼んだ。
「かがみは」
「え…?」
「かがみは、どうするの?」
こなたが背中に手を回して、私に抱き付きながら再度同じ質問を問い掛けてきた。
こなたが何を思ってこんなことを聞いてくるのか、全然分からない。
突拍子のないことを言うのはいつものことだけど、今はそのいつもとは何か違う感じがする。
なにが違うかは分からないけど、こなたの口調とか雰囲気とか。
私に考える時間をくれているのか、こなたはゆっくりと私を見上げてきた。
暗闇に少し慣れてきた目で私もこなたを見つめる。
普段マリンブルーのような瞳が今では深海を思わせるような漆黒に近い色をしていた。
地球最後に何をしたいか。
そんな小学年が話すようなネタを真剣に悩む必要はないのに、何故かこなたのその瞳から目を離せないでいた。
真面目に答えると、したいことは山程ある世界三大珍味だってまだ食べてないし、弁護士になるという夢も叶っていない、お母さんやお父さんにも話してないことがいっぱいあるし、あのラノベの続きだって気になるし、それに…
「私は…箱を見るまで信じないわね」
「え?」
こなたの瞳が少し揺れたのを見ながら私は続ける。
「蓋を開けるまで、信じない」
「…………」
きっとコイツはこういう返事が欲しかったわけじゃない。
私も、こなたといたい。そう言って欲しくてこんな質問をしたんだと思う。
普段ツンデレツンデレ言ってるこなただけど、こいつの方がよっぽど意地っ張りで負けず嫌いだ。
だから、私はアンタの望む言葉なんて言ってやらない。
「アンタがそこにいるまで、信じない」
「私は猫じゃないんだけど?」
「……箱に入ってる中身の違いでしょ」
まさかこなたからまともな返答が返ってくるなんて思ってなくて少し反応が遅れた。
「地球がどうとか、私には関係ないもの」
そう、あの偉人が言った通り、猫が死んでいるかいないかの問題だけだ。
私にとってはその中にこなたさえいればいい。
「かがみは狡いよ」
そう呟いたこなたは困ったような笑顔を私に向けた。
「私から見たらアンタの方が狡いけどね」
これは単なる言葉遊び。
なんの意味もなければ、特別な感情さえもない。
「それよりアンタがパラドックスを知ってたことの方が驚きだけど?」
「まぁ漫画の知恵袋だけどね」
なるほど。
私だってあの偉人が考えた理論を全て理解できるわけじゃない。
いや、理解なんて人それぞれで違うものなんだろう。
「かがみ…」
何かを求めるように、でも諦めたようにこなたが私の頬に触れた。
私達は所詮箱の外にいる存在。
中になにが入ってるかなんて誰にも分からないし、分かりたくもないと思う。
だけど…。
だけどもしその中に入れるなら…

「こなた」

私の目の前にいるこの小さな友人と一緒がいいな、と私は瞳を瞑った。




 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ