らき☆すた【短編】1号館
□紫色の雨粒
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窓の外には春を感じさせる桜が校庭一面を覆っていて。
そんな繊細で綺麗な花びらを嘲笑うかのように空からは大量の雨粒が降り注いでいた。
「雨だね」
今まで一緒に窓の外を眺めていたこなたが小さく呟いた。
「…そうね」
校庭では今までなんとか部活を続行していた野球部が、後ろ髪をひかれるようにバットやらボールやらを片付けている。
「………」
「………」
薄暗い教室でただ窓の外を眺めている私達は、はたから見たら滑稽なんだろうな、なんて考えながらチラッと横に立っているこなたを見る。
私よりも一回り小さい体、ピョンとたったアホ毛、猫みたいな口。
いつもの泉こなただった。
私がよく知っている、ずっと一緒にいた泉こなただった。
「かがみは…」
私の視線に気付いたのかこなたがゆっくりと私の方を向いた。
「雨、嫌い?」
なにをいきなり。
咄嗟に開いた口は確かにそう言おうとしていた。
しかし、開かれた口からはヒュと変な息だけ抜けていく。
少し苦笑気味な、いや、どこか寂しげに見える笑顔を私に向けるこなたがそこにいた。
「…なんで?」
「へ?」
なんでそんな寂しい顔をしてるの?
なんでそんな、泣きそうな瞳をしているの?
こなたは私の質問の意味が分からないのか少し首を傾げていた。
こなたの瞳の中の私が揺れている。こなたが泣きそうなのか、私が泣きそうなのか。
「こなた」
思わず名前を呼んで小さなその体を抱き締めていた。
「か、かがみ…?」
腕の中のこなたが焦っているように言ったけど、お構いなしに背中に回した腕を強める。
こなたの体は想像以上に小さくて、冷たかった。
撤収〜、と校庭から野球部の声が聞こえる。
きっと雨量が増しているんだろうなぁなんて、していることは大胆なくせに周囲を冷静に分析している自分に苦笑してしまう。
「かがみ」
甘えるように私の腰に手を回したこなたがおずおずと私を見上げてきた。
子供のように綺麗な、真直ぐな瞳に私は釘付けになる。
「好きだよ」
「うん」
「ずっと、好きだった」
「うん」
ストン、と胸にあったモヤモヤが重力に沿って雨粒のように体の奥に落ちていった。
好きだった。
この青い空のように長い髪が好きだった。
私を見上げる新緑の瞳が好きだった。
小さな、この友人が大好きだった。
きっとこなたも私と同じ気持ちだったんだと思う。
自惚れなんかじゃなくて、私達は似てるから。
好きという自分の感情よりも大事な大事な人だから、自分の気持ちを押し殺していた。
雨みたいに一粒落ちたら全てが零れてしまいそうで。
理性と感情のギリギリのラインで、不安定な均等のとれない私達の雨粒。
「私も好き」
口に出すのは初めての言葉に思わず顔に熱が帯びた。
腕の中にいるこなたがはにかんだように笑う。
雨が嫌いだった。
零れてしまう感情を押し殺すことはとてもつらいから。
でも受け止めくれる人がいた。
受け止めてあげたい人がいた。
「こなた」
「かがみ」
ありったけの感情をのせて呼んだ名前は、ありったけの感情をのせられて返ってきた。
雨はまだ止みそうにないけど、二人でならこの雨の中を走っていけるかもしれない。
そんな事を考えながらさっきよりも勢いを増した雨を眺めていた。