らき☆すた【短編】1号館

□たまには
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「ねぇ、かがみ」
ポカポカという効果音が当てはまるような、昼下がり。
いつものように私の家に遊びにきたこなたが、横にしていた体を起こしながら私の名前を呼んだ。
「ん〜?」
読みかけのラノベを開いたままこなたの方に顔を向ける。
「平和だねぇ」
いつものように猫口にしたこなたが倒れ込むようにテーブルに被いつぶれた。
なにかのネタなのか?とか思ったけど、一応疑問系で聞かれたんだから答えるのが筋よね。
「またアンタは唐突な…というか、ただ暇なだけだろ」
溜め息をつくように少し息を吐きながら言うと、驚いたようにこなたの瞳がピクッと動いた。
「さっすが、かがみん♪」
「なにが?」
「言わなくても私のことを常に把握してくれてるんだね」
嬉しそうな、というより楽しそうに目を細めながら私に近づくこなた。
一応褒められているのよね、これって…
「ってゆーか、5分前に『暇だ、暇だ』って床を転がっている奴を見れば嫌でも分かると思うけど」
転がっていたせいかボサボサになっているこなたの髪を手で梳かしてみる。
手入れとかしてなさそうなのに何でこいつの髪はこんなにサラサラなんだろう。
「むぅ…なんでかがみはこう、ロマンチックに欠けるというか、現実主義なのかねぇ」
「まぁ、いつもアニメやらゲームやらの世界にいるアンタよりは、ね」
と、絡めた指をはずし、ポンッと軽くこなたの頭を叩く。
「その言い方じゃ、わたしはいっつも二次元に生きてるみたいじゃん」
「その通りだろ」
呆れたように、言ってやるとこなたはブンブンと頭を振って乗っけていた私の手を振りほどいた。
「違うモン、三次元にも目を向けてるよ。……たまに」
「やっぱり『たまに』なんじゃない」
行き場を無くした手を再びラノベへと戻し、ペラッとページを捲った。
あれ、どこまで読んだんだっけ。
「でもその『たまに』は全部かがみのこと、だよ」
「………………」
ストーリーを振り返ろうと前のページを捲ろうとした指が止まった。
こいつはなんでこう不意打ちに嬉しいことを言ってくれるんだろう。
でもそれを気づかれたくなくて、上気していく体の感覚を紛らわすように「あっそ」とだけ呟いて止まっていた指に力を入れる。
「あれ、なになに〜。かがみ今照れた?照れた?」
ニマニマと目尻を下げて笑うこなたが私の顔を覗き込んできた。
ちょ…か、顔近い。
どっちかが少し動けばキス出来てしまう距離まで近づかれて、思わず後ろに仰け反ってしまう。
「べ、べつに照れてなんか、ないわよ」
自分でも動揺しているのが目に見えて分かる。
熱が顔まで上がってきて、ドクドクと血液を送る心臓の音がうるさい。
「むふー、かがみんは可愛いなぁ♪ほぉら、よしよし」
そういいながらさっきとは逆に私の頭を撫でるこなた。
私の心の中まですべて見透かされているようで、恥ずかしくって…少し悔しい。
「あ、頭撫でるなっ!!」
なんて言ってみるけど、こなたにとって照れ隠しだって事ぐらいお見通しなんだろう。
「顔真っ赤にしといて今更遅いって♪」
「赤くなんか…」


「「「嘘だっっ!!!!!!」」」

「な、なによ。びっくりするじゃない」
そんな大きな声じゃないけど、耳元で叫ばれたから少し耳がキーンってした。
「雛見沢のお持ち帰り少女のセリフだよ」
そんなこと言われても私に分かるわけないだろ。あぅあぅ。
「3期まだかな、かな」
「ついていけん」
魅音より詩音派だとか、鷹野がたまにエーテルに見えるとか、私にはついていけない話だ。
え、詳しいって?富竹は黙って写真でもとっておきなさい。
「………かがみん」
そんなことを考えていると再度こなたが私の名前を呼んだ。
「ん?」
もう読む気も失せたラノベをパタンと閉じてこなたの方を向く。
「暇だね」
「……そうね」
「だけどね」
「?」
「かがみといるから暇じゃない」
だから、そんな恥ずかしいことを平気で言うな…っ!!
「……む、矛盾してないか。それ」
耳まで真っ赤になってるだろう顔を背けるのが精一杯で、悪態をつける余裕がない。
「私の中では正論だよ」
「随分狭いストライクゾーンな正論だな」
やばい、私今絶対顔緩んでる。
自分が思っている以上、私はこなたのことが好きなんだなぁと他人事のように思う。
こなたの一言にこんなに心が躍って、こなたの行動一つ一つがこんなに愛しくて。
「かがみは?」
「へ?」
腰に回されたこなたの腕から伝わる体温が、私を包んでいく。
「暇?」
「まぁ、暇っちゃ暇だけど…」
「だけど?」
服を隔てて伝わるその温度が、耳をくすぐるこなたの吐息が、どんどん私の心を溶かしていく。
どこまでも深いエメラルドグリーンの瞳が素直になってもいいよ、と。
そう言っているようで。
…そうね。『たまに』は素直になるのもいいのかもしれない。
だけど、やっぱり恥ずかしくて。これくらいなら、いいわよね。


「アンタといるから、暇じゃない」


カランと鳴ったコップの中の氷の音とほぼ同時に視界がこなたで埋め尽くされた。
唇から感じる甘い甘い感触にゆっくりと瞳を閉じながら、この『たまに』が永遠に続きますようになんて、らしくない事をかんがえていた。




 

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