らき☆すた【短編】1号館

□春の憂鬱
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―――春と言えば?

と聞かれて世の中から聞こえてくる返答はというと『桜』『恋』『花見』など、どれも心浮くようなものである。
でも所詮そんな浮かれた答えが返ってくるのは空想の世の中だけで。
現実には、花粉症や新生活のゴタゴタがある大変な季節なのに…なにが楽しくて世の中、浮き足じみているのだろう。

……あぁ、ダメだ。
また卑屈になっている。
さっきから世の中への愚痴を繰り返しては自己嫌悪、という悪循環をしていることに私は大きな溜め息を漏らした。
「ったく…」
誰に呟くわけでもなく、唇から零れた言葉に再度感じる嫌悪感。
ここまで私が鬱になっているのには、『明日から始まる新学期』というちゃんとした理由がある。
これだけじゃ、私がどこかのヒキコモリ少女みたいに聞こえるかもしれないので、言葉を変えて言うと…
『明日発表されるクラス変え』が原因なのである。
17年間という少ない時間のうちで数回のクラス変えがあったけど、こんなにクラス変えが嫌だったことは人生初めてだ。
まぁ、それに多いに絡んでいる人物がすぐ傍にいるんだけど。
「どったの?かがみん」
私の溜め息に気付いたのか、横で私の宿題を写していた泉こなたが顔をあげた。
「……別に」
半ばやけくそに返答すると、こなたが持っていたシャープペンを机に置いた。
「ん?写し終わったの?」
「うんにゃ、まだ全然」
「2時間もかけて何してたんだ、アンタは」
呆れたように言ってやると、何故かニヤニヤと笑いながら私を見つめてくる。
「…な、なによ」
「いや〜、なんでも〜♪」
そう言ってこなたは上機嫌そうに鼻歌を歌いながら、再度シャープペンを握った。

って、どこまで話したんだっけ。
あぁ、クラス変えが嫌ってトコまでだったわね。
その理由は、至極簡潔。
どうせ一緒になるはずがないからだ、このチビッこいオタクと。

こなたを好きだと気付いたのは半年前。
自分の気持ちに気付いたきっかけ、というか…
ずっと思っていた気持ちはたった一つだった。

『ずっとコイツと一緒にいたい』

こんな少女漫画にありがちなセリフをまさが自分が言うなんて思ってもみなかったけど。
フラフラと少し浮き世離れしたこなたを私が傍で支えてあげたい、という気持ちが日に日に大きくなっていって。
隣りのクラスという現実さえも疎ましくなっていた。
そりゃ登校と下校、休み時間や昼休みは一緒だけど…
やっぱりクラスが違うというだけで、もどかしい事実があるわけで。
だから、今年のクラス変えに期待していた部分もあったのに。

『双子は一緒のクラスに出来へんからなぁ』

と、いう黒井先生の一言で私の仄かな希望は見事に撃沈した。
だから今まで一回もつかさと同じクラスになったことなかったのね。

『柊妹と泉はウチが最後まで面倒みるやさかい、安心せぇ♪』

明るく話す黒井先生に必殺コンボをくらったかのように、私は再度は深い海の底まで沈没させられた。

「かがみんさぁ…」
思い出してまたヘコんでいた私を現実に戻したのは、シャープペンを口にくわえたこなただった。
「実は春、嫌いでしょ?」
「…………はぁ?」
なにを唐突に。
まぁコイツが突拍子のないことを言うのは毎度のことなんだけど。
「いや、さっきからずっと溜め息ついてるし。もしかしたらーってね」
よく物を咥えたまま話せるわね。
どっかの大剣豪か、アンタは。
「別に。嫌いなわけじゃないわよ」
「そうかな―?」
「………そうよ」
全てを見透かしたような深い緑色の瞳から目を背けると、むふーとこなたが唸るように言葉を吐いた。
「私は春好きだけどなー♪」
「なんで?」
「なんとなく」
「ホントは?」
「アニメの新番組が始まるから」
でしょうね。
どこにしまってあったのか、コンプティークと書かれた雑誌をとりだすこなた。
嬉しそうにペラペラとページを捲るこなたにふっと笑みが零れる。
私は私が思っている以上にコイツのことが好きなのかもしれない。
「それにね」
「ん?」
「かがみみたく暖かい感じがして、好きだよ」
「なっ…!!」
な、な、なにを言ってるんだコイツはっ?!
いや、落ち着け私。
最後の【好きだよ】は、前の【暖かい感じ】にかかってるわけで。
え、でも【かがみみたく】ってことは…?
心臓がこれでもかってぐらい全身に血液を送ってる音がドクドクとうるさい。
かぁと上がった体温はなかなか冷める気配も感じられなかった。
「照れるかがみ萌えるねぇ♪」
なんて笑いながら言うこなたにつっこみをいれられる余裕さえない。



 
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