らき☆すた【短編】1号館

□画面の向こう
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暇だ。
とてつもなく、暇・ひま・ヒマ。
教壇ではもうすぐ定年を迎えそうなおじいちゃん先生が漢文の成り立ちを話しているけど、その話、30回聞いた気がする。
ポイッと最初から取る気のなかったノートにシャープペンを投げる。
そのまま机にうっつぶして居眠りでもしてしまおうか。
チラッと黒板の上にかかってる時計を見ると授業が終わるには後30分以上の時間がある。
そう言えばこの授業が終われば昼休みだ。
そう思うと無償にお腹が減るのはなんでなんだろう。
さっさと授業を終わらせてくれ〜と相変わらず訳の分からないことを話しているおじいちゃん先生に念を送ってみるけどやっぱり無意味に終わる。
熱弁まではいかないけど、生徒の興味なんてお構いなしに漢字ばっかの文字の羅列を黒板に書いていく先生から視線を離し、周りを観察。
私みたいにボーとしている子、窓の外で他のクラスの体育授業を見ている子、120%役に立たないだろう黒板を必死に写している子。
でもやっぱり大部分のクラスメートは机に覆い被さって睡眠をとっているようだった。
あ、つかさ、完全に沈黙。
カクカクと眠そうに頭を動かしていたつかさは結局睡眠欲に負けたらしく、机に覆い崩れた。
さて、みゆきさんはどうかな?
斜め後ろに座っているみゆきさんを振り返ってみる。
おっ、さすがみゆきさん。ちゃんと起きてる。
でもペンを握っている左手は全く動いてなくて、視線は黒板のやや上め。
うん、うん。無駄にボーとしちゃうことあるよね。
なんて心の中でみゆきさんに語りかけながらそのまま再度前を向く。
てゆーか、もう漢字なんだかアラビア語なんだか分からない文字が黒板に書いてあって、写してるわけじゃないけど頭が痛くなりそうだ。
そう言えば…
かがみは今頃なにしているんだろう。
かがみ達のクラスの火曜の4時間目は確か数学だったはず…
私達は5時間目に数学で宿題とか昼休みに写させてもらってるからしっかり記憶している。
「アンタは毎度毎度…」
なんて呆れたように言うけど、結局ちゃんと見せてくれるかがみ。
うん、絵にかいたようなツンデレだよね。絵書けないけど。
かがみは真面目だからきっとちゃんと授業受けてるだろうけど、他にすることもないくらい暇だったから私はスカートのポケットにあった携帯電話を開いた。
壁紙に映る某アニメのキャラをじっくり見る暇もないくらい素早く新規メール作成ボタンを押す。
………なんて送ろう。
ほぼ直感的にメールを送ろうとしていた私だけど、特に話す内容が思い浮かばない。
まぁ四六時中一緒にいるわけだし、話してる内容なんて薄っぺらいものばっかりだけど。
とりあえず、メールが返ってくるか確認の為に「起きてる?」って送ってみる。
授業中なわけだから起きてるのは当たり前なんだけど、それは常識ばっかり語ってる先生と教育評論家だけで十分だ。
学生なんてこんなものだ。
友達がいるから、楽しいから、そんな楽観的な理由で学校に来てる人の方が多いんじゃないかな。
私だってかがみ達がいるからこうやって徹夜明けでも毎日学校に来てるわけだし。
そんな屁理屈を考えていると手の中の携帯が震えた。
メール1件。
送信者は勿論かがみから。
「当たり前でしょ。アンタもちゃんと勉強しろ」
授業中にメールを送ってるかがみも人のこと言えないんじゃ?なんて思ったけど、なにはともあれ返事がきた事に嬉しくて、素早く文字盤を打つ。
キーボードならもっと早いのに。なんて杞憂なことを考えながら「暇なんだもん」とだけ送った。
かがみから連絡とる為にちゃんと携帯くらい持っとけ、って言われてから私は殆ど毎日携帯を持って出かけるようになった。
受信送信ともにほぼ9割をしめるのは『柊かがみ』の名前で、少し嬉しくなって携帯をそっと撫でた。
まぁ、私のアドレス知ってるのはかがみとつかさとみゆきさんくらいだし、当たり前といっちゃあ当たり前なんだけど…
ヴィィと不意打ちで鳴った携帯に少し慌てながら受信箱を開ける。
「まぁ分からなくもないけど…そんなに暇なら今日の数学の宿題は勿論終ってるのよね?」
うわ、墓穴ほった。
「当たり前ジャン。かがみ、期待してるよ」
「そんな事だと思ったわよ」
携帯越しにかがみが溜め息が聞こえてくる気がして、思わず笑みが零れた。
「なんだかんだ言って、見せてくれるかがみ萌え♪」
「まだ見せるとは言ってないわよ」
「さすがかがみ様」
「人の話聞け…というか読め」
そんな言葉遊びをしてるうちに気がつけば画面の左上に表示された数字を見ると後数分で授業が終る時間になっていた。
「ねぇ、かがみ?」
メールで問い掛けるなんてほとんど無意味だって分かってたけど、なんか名前を呼びたくなった。
んー?とだけ書かれた画面を見て、少し考えてからボタンを数回押してメール送信。
送信完了の文字が出たのとチャイムがなったのはほぼ同時。
その音にクラス全員が起き上がります、起立、礼。
黒板にはすでにどこの国か分からない文字やら絵が書いてあった。これが試験に出たら誰も解けないだろうね。
鞄からいつもの通りチョココロネと牛乳を出して、まだ居眠りをしているつかさの元へと向かった。
「バル……セロナ……」
バルセロナ?
意味不明な寝言を言っているつかさの肩を揺すったのと同時にグイッと左肩を引っ張られた。
「やぁ、かがみ」
「やぁ、じゃないわよ。なんなのよ、コレ」
グッと私の目の前に携帯電話を押し付けたかがみ。
携帯電話の横から見えるかがみの頬が少し赤くて、無意識に上がってしまう口角を手で隠す。
「なにって、私の気持ちだよ」
予想外の返事だったのか、口をパクパクと開いたり閉じたりしてるかがみを猫口で観察。
「口に出して言ってほしいの?」
「なっ…!!べ、べつにそんなんじゃ…」
「じゃあ『どんなん』なの?」
自分でも揚げ足だって分かるけど、茹でタコみたく真っ赤になってるかがみを見たらいじめるなってゆー方が無理でしょ、でしょ。
俯きながら照れているかがみを抱き締めて、自分の口をかがみの耳元に近付けて…


「大好きだよ」


文字なんかじゃなくて、思いっきりの感情を乗せてそっと呟いた。




 

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