らき☆すた【短編】1号館

□まじっく ちぇんじ
1ページ/1ページ

なんの変てつもない女の子が突然魔法使いのおばあちゃんを見つけちゃったり、昔の因果か因縁かなんかのせいで腕から炎が出ちゃっう体質だったり…なんて話はしょせん漫画やアニメの話であって。
現実にはこんなこと有り得ないってことは、たかだか10数年しか生きてない私だけど理解もしていたし、そういうものだと思っていた。
だけど…

「つかさ、この状況を10文字以内で説明プリーズ」

「ふぇ?!え、えっと、お姉ちゃんが朝起きたらお兄ちゃんになっちゃってて……あれ?10文字以内だから、お姉ちゃんがお兄ちゃんで、えっと、えっと…」

うん。つかさ、ごめん。
全 く 分 か ん な い 。
一生懸命説明してくれようとしてるのは伝わるんだけど。
必死で両手の指を折りながら10文字以内で説明しようとしているつかさに首を振って、もういいから、と合図する。
これ以上混乱するのはごめんだし、私以上に混乱しているつかさを見て小さく溜め息をついた。

「で、どちら様?」

小さな汗をいっぱい出してるつかさより20cmくらい高い位置にいる人物に視線を上げて尋ねてみる。
まぁ、答えは98%くらい確信を持って分かるんだけど。
残り2%に願いをかけたって罰はあたらないだろう。

「…かがみ、だけど」

私の知ってるかがみよりも低い声で、何故か顔を背けながら呟くかがみ…もどき。
いや、つかさと同じ薄い紫色の髪やツンデレの象徴ともいえるツリ目は正しくかがみと同じだけど。
私の目の前にいるかがみと名乗る人はどこからどう見ても男の子で。
しいて違うと言えば、いつも2つに結ばれてる髪が肩の位置までしかない短パツだったり、広すぎる肩幅だったり、着ている制服がセーラー服じゃなくて学ランだったり。

「えっと、つかさ達の従姉妹?」

どうしても認めたくない私は無駄な抵抗を試みる。
だって『昨日まで同性の友達(恋人でもある、だけど)だった人の性別が急に変わる』なんて信じろって方が無理でしょ?!
「性別変わっちゃったー」
「そっかー」
なんて軽いノリが出来る人がいるならここに来て、代わってあげるから。
なんて某アニメの名前不詳の主人公の台詞を頭に思い浮かべながら、つかさから言われた「違うよ」という言葉に深く溜め息をついた。
どうやら私の願望は叶えられず、この男の子はかがみ…らしい。

「どういった経緯で?」

これを聞いてどうするんだ、とか自分でツッコミを入れながら何か話さないと私の普段使っていない脳がキャパシーオーバーしてしまいそうだ。

「いや、朝起きたら…こんな姿になってて」

やけに弱気がちに呟くかがみ。
雰囲気や話し方はかがみなのに何故か違和感を感じてしまう。
なんてゆーか、女の子の時よりも角張った顔とか背の大きさとかが…かっこよくて。
いやいや、待て待て私。
確かに今の男Ver.のかがみは世間一般人にかっこいい分類に入ると思うけど。
今は見とれてる場合じゃなくてっ!!

「昨日変わったこととかしなかった?」

変な思考を振り払うように私の知っている限りに昨日の出来事を思い出してみる。
昨日は久しぶりに私が柊家にお邪魔して、かがみの宿題を写して、キスして………まぁ、色々して。
私が夕飯の当番だったから早めに柊家を出たけど。
そこまでは普段通り女の子のかがみだったし、変な様子なんてなかっ―――

『こなたは私が男でも付き合ってた?』

急に頭の中で再現された言葉に思考が一時停止した。
この言葉は、昨日確かベッドの中でかがみが言ったことだ。
なんでこんなこと聞くんだろうって思ってたけど、その時確か眠気がピークでかがみがなにか続けて言ってたみたいだけど、曖昧に返事をした記憶しかない。
いや、でもだからってそれだけで性別が変わるのはおかしいでしょ。

「変わった事はしてないけど…」

脳内で自分にツッコミを入れてた私にさっきの質問の答えを言うかがみ。
顎の下に手をおいて、昨日の行動を思い出すように考え込んでいる。
その手も私の知ってる小さくて柔らかな手じゃなくて、ゴツゴツというか、少し長くてかっこよく見えた。
って、だからそうじゃなくて!!!

「あっ…」

ポンと何かを閃いたように凝視していたかがみの手が顎から外れた。

「なんか思い出した?」
「い、いや…別に」
「えー、なになに?」

明らかに動揺しているかがみにジリジリと近付く。
うわっ、今近付いて気付いたけど背大きいよ。
女の子のかがみだったら背伸びすればギリギリキスできる身長差だけど、今のかがみじゃ背伸びしてもせいぜい肩の位置だ。
いつもより角度をつけてかがみを見上げるとかがみはプイッと顔を背けた。
どうしたんだろ?と少し大きいのか丈の長い学ランの裾を引っ張ろうとしたと同時に肩に感じた重さと体温。

「えっ、ちょ…か、かがみ?」

状況を飲み込むのに少し時間がかかったけど、どうやら私はかがみに抱き締められてるらしい。
ここ駅の前だよ、とか、行き交うサラリーマンの視線が痛いとか。
普段は常識離れしてると言われる私でも、朝っぱらから駅前、しかもバス停前で高校生の男女が熱い抱擁を交わしてる姿は非常識だと思うし。
私の後ろにいるつかさがどんな顔してるかは分からないけど、「お姉ちゃん、大胆だねー」と拍手してる音と声が聞こえるのも…非常識だと思う。

「こなた…」

いや、そんな熱っぽい声を出されても。
てゆうか、つかさ。一人でバスに乗ろうとしないで、助けてよ。

「こなたは私が男でも付き合ってた?」

さっき思い出したかがみの言葉が今度は昨日より低い声で私の脳に響いた。
普段とは全然違う低い声なのに、話し方とか雰囲気はまんまかがみで。
安心すると同時にドキドキする。
というか、聞かれたんだから答えないと。

「えっと…付き合ってた、と思うよ」

確かに女の子は二次元・三次元問わず萌えるけど、私はかがみって人間が好きなわけで。
きっとかがみが男の子でも告白された時みたく、すぐ頷けたと思う。
私の答えが満足だったのか、背中に回してた腕の力を弱めて嬉しそうな笑顔を私に向けた。

「じゃあ昨日言ったこと、していい?」
「へ?」

私の手を引きながらバス停から遠ざかって駅の中に入ろうとするかがみ。
あぁ、つかさが乗ったバス、発車しちゃったよ。
バイバイ〜って手を振ってる場合じゃないでしょ、つかさ。

「かが…ちょ、まっ!!」

とりあえずニコニコしながら歩いてるかがみを止めなきゃ。
てかただでさえコンパスの差が違うのに急ぎ足されると私が駆け足になるんだけど。

「どうしたのよ」
「いや、あの…昨日のことって、何?」
「アンタ頷いたじゃない」
「へ?」
「もし私が男になったら私との子供産んでくれる?って」
「なっ…?!」

いやいや、ちょっと待ってよっ!!!
確かに眠りに落ちる前にそんなこと言ってた気がするけど。
そんな状態の同意なんてノーカウントでしょ?!
そんな私の抵抗を見事にスルーしながらグイグイと引っ張るかがみ。
後ろから見えるその表情は嬉しそうで。
そう言えばかがみの家は神社だっけ。
男になりたい、男になりたいと必死に境内でお祈りしてるかがみが目に見えるように再現されて。
神様もこんなハチャメチャなお願いを叶えるよりも、かがみと私が同じクラスになるようにしてよ。
なんて半ば責任転換な事を考えながら何だかんだ言っても結局、私はかがみには勝てないんだよね、と自嘲気味に笑いながら、かがみに握られてる手をギュッと握り返した。



 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ