らき☆すた【短編】1号館

□初夏と秋
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「夏だねぇ」

隣に座っているこなちゃんがパタパタと足を交互に動かしながら言った。
ちょっと失礼かもしれないけど、その姿が小さい子供が駄々をこねているようで可愛くて思わず頬の筋肉が緩む。

「だねー」

そう答えながら少し汗ばんだ顔に風を送ろうと手をうちわ代わりに動かしたけど、うまくいかない。
扇風機を出すには少し早いし、だからと言ってジッとしてるには蒸し暑くて。
そのままこなちゃんの方を見ると、太陽の方を見てたこなちゃんが私の視線に気付いたのか、ん?と首を傾げてきた。

「えっと…な、夏だね」

他に思い付く言葉がなくて、思わずさっき言った言葉を繰り返すと、こなちゃんが少し笑って、だね、とうなづいてくれた。
なんだか気恥ずかしくなって、さっきまでこなちゃんが見ていた空を見上げた。
まだ夏真っ盛りってわけじゃないけど太陽は冬の時より高くて、雲一つない空が清々しい。
青く澄んだ空を見つめていると、「つかさ」と名前を呼ばれた。
今日はおじさんもゆたかちゃんもいないらしいからこの家で私を呼ぶ人は一人しかいない。

「なに?こなちゃん」

空から横にいるこなちゃんに視線を戻すとこなちゃんが少し笑いながら体を傾けてきた。

「ふぇっ?!え、こなちゃ…」

慌ててこなちゃんの体を支えようと手を伸ばすとこなちゃんがその手を握って私の太股辺りに頭を乗せる。
いきなりのことで状況をうまく理解出来ない私が面白いのか下にいるこなちゃんがケタケタと笑った。

「びっくりした?」
「う、うん」

びっくりはまだ継続してるんだけど…えっと、この体勢って。

「バカップルの必殺技っ!!ひざまくら!」

そういいながらこなちゃんは私の手を握っていた手をそのままこなちゃんのお腹らへんに動かした。
Tシャツ一枚なのか、こなちゃんの熱とか鼓動が直接伝わってきてちょっと恥ずかしい。
というか下から見られるって経験がなくて、どこを見ていいのかキョロキョロと目を動かしてしまう。

「つかさキョドりすぎ」

とまたこなちゃんが笑った。
いつもお姉ちゃんをからかうような意地悪っぽい笑顔じゃなくて、優しくて少し子供っぽい笑顔で。
その笑顔につられて笑い返すと満足そうにこなちゃんが頷いた。

「つかさは夏好き?」
「え、どうして?」
「なんとなく」

直接太陽の光が目に入るのかこなちゃんが繋いでない方の手で顔を隠しながら尋ねてくる。

「んー、熱いとだらけちゃうけど嫌いじゃないよ。こなちゃんは?」
「嫌いじゃない、かな」
「じゃあ好き?」

私の影で光が当たらない角度を見つけて少し前のめりになってこなちゃんに尋ねると、何故か目を見開いて真っ赤になるこなちゃん。
どうしたんだろ、と顔を近付けた瞬間、こなちゃんが慌てて上体を起こそうしたらしく思いっきり顔と顔がぶつかった。
いや、顔がぶつかったというよりは、うまい具合に唇と唇がぶつかったんだけど。

「…っ」

結構な勢いでキスしてしまったせいか、唇の裏に自分の歯当たって少し痛い。
こなちゃんは大丈夫かな、と反射的に瞑ってしまっていた目を開けるとギュッと何かに堪えるように瞑られているこなちゃんの目。
体を起こそうした途中だったみたいで、体を支えているこなちゃんの腕は腕たて伏せを途中で止めた時みたくプルプルいっていた。
そのままじゃいくら格闘技経験者のこなちゃんでも辛いんじゃないかな、と思って中途半端に浮いているこなちゃんの背中に腕を回す。

「ん…つか、さ」
「こな、ちゃん」

呼吸をするために口を離しながらもお互いの名前を呼ぶ。
気温がさっきよりも上がったんじゃないかって思うくらい熱い。
それはきっとこなちゃんから伝わる熱と甘い息遣いのせいだけど。

「…好きだよ」
「へ?」
「夏」

あぁ、そう言えばさっきその話してたんだっけ。
一瞬私の事だと思ったのは恥ずかしいから内緒。

「私は夏よりもこなちゃんの方が好きだよ」
「……そーゆーの、ズルイ」

少し拗ねたように口を窄めるこなちゃんの長い髪を撫でる。
髪質のせいか一本一本が細くて指の間から滑り落ちる髪を少しムキになって指に絡めた。

「つかさは夏というよりは初夏なイメージだよね」
「初夏?」
「うん、イメージなんだけどね。熱すぎず、寒すぎの初夏って感じがする」

そう言ってこなちゃんはまた私の膝に頭を乗せた。
初夏って今くらいの季節だよね。
確かにお姉ちゃんにはよくつかさはマイペースだからね、とか言われるけど…
熱しすぎず、寒すぎずとは少し違うような。
自分をイメージするって難しいし、考えて分かることじゃないからきっと私はこなちゃんが言うように初夏みたいな感じなんだろう。
じゃあ、こなちゃんのイメージはなんだろう。
人懐っこいところあるけど、少しクールなところもあるし。

「どったの、つかさ?」

上を向いてこなちゃんのイメージの季節はなんだろうと考えてた私に不思議そうにこなちゃんが尋ねる。

「んっとね、こなちゃんのイメージの季節ってなにかな、って」
「私の?」
「うん、でも難しくって」

結構アクティブなところもあるから、夏?
んでもコタツでぬくぬくしてるイメージもあるし、冬?
でも…

「秋、かな」
「え?なんで?」
「四季の中で一番短いのに、凄い存在感あるでしょ?それに秋空が一番綺麗な青色だと思うから」

こなちゃんの髪のような吸い込まれそうな青い空。
そんな空に包まれてるってだけで何故か温かい気持ちになるから。

「やっぱりつかさって、ズルイ」

体を捩じって私のお腹に顔を埋めながらこなちゃんが私の腰の辺りに強くしがみついた。
何がズルイんだろう、なんて疑問はあったけど。
そんなことよりも今の私にはこなちゃんから伝わる熱だけが全てで。

今はまだ私の季節だけど、すぐに来るだろう小さな恋人の季節を待遠しく思いながら、強まる腕に答えるようにこなちゃんの髪に指を絡ませた。




 

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