らき☆すた【短編】1号館

□コトダマ
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それから、新しくできたショッピングモールや映画、勿論ゲマズ、メイト、とらあな、と巡っているうちに、赤い夕日が空を真っ赤に染めていた。
「…とぉっ!!!」
公園のブランコに立ち乗りしていたこなたが、ピョンとブランコから飛び降りながら私が座っているベンチの隣に座ってくる。
「やっぱりこの時期になっても、まだ日短いね〜」
その言葉に手首につけていた腕時計に目を落とすと、文字盤は5時を少し回ったところだ。
「なんだかんだいってまだ3月だしね」
だんだん低くなる周囲の気温に思わずブルッと体が震えた。
この時期になると昼間暖かいからついつい春物の洋服着ちゃうのよね。案の定こうやって夕方苦労するんだけど…
「かがみ寒いの?」
「少しね。アンタは?大丈夫?」
私よりも着ている服の枚数が少ないだろうこなたに訊ねる。
「ん。少し、寒いかも…っくし」
両手を交差させて上腕をさすっていたこなたがすべてを言い終える前にくしゃみをした。
「寒いんじゃない。日も暮れてきたしそろそろ帰る?」
「ん〜」
口を尖らせて何故か渋っているように見えるこなたに?マークを浮かばせていると、ピトッと肩にこなたが顔を近づけてきた。
「なっ…!!」
いきなりのこなたの行動にズキューンと銃かなんかで心臓を打ち抜かれたような感覚が襲った。
さっきまでの寒さが嘘のように体温が上気する。
「かがみ、あったかいね」
120%アンタおかげなんだけどね。
ふぁっとこなたの髪からシャンプーの香りが鼻孔を掠める。
こなたと触れている肩が火傷するんじゃないかってくらい熱くなって、気が付いたらこなたを抱きしめていた。
「へっ?!か、かがみ…?」
「こなた」
あぁ、ダメだ。止まらない。
目の前にいる小さな恋人がとても可愛くて、守りたくて、私だけのものでいてほしくて…
そんな欲望の渦に巻き込まれていく感覚。
『好き』
…違う、そんな二文字じゃ伝えきれない思いがひしめき合って。
ギュウとこなたを抱きしめている腕に少し力を入れると、慌てていたこなたがおずおずと私の腕を掴んできた。
少し震えているその感覚がリアルで、こなたの匂いでいっぱいのこの状況に私の中の脆い理性という扉が開けられていく。
「…こなた」
キスしたい。
そんな感情を込めてこなたの名前を呼ぶと、私の思いが通じたのか少し恥ずかしそうに俯いて、目を閉じた。
夕日に負けないぐらい真っ赤に染まったこなたの頬に幸せを感じながら、ゆっくりと唇を落とす。
初めて触れるこなたの唇は柔らかくて、甘かった。
うっすらと目を開くとギュッと強く目を瞑っているこなたが見えて、もっとこなたに触れたくて、角度を変えて唇を重ねる。
ここ外なのにとか、誰かに見られるかもなんて考えは頭の奥底に残っていたけど、止まらなかった。
「んっ…かが、っ…」
軽いキスを繰り返しているとこなたの甘い声が聞こえてきた。
口が塞がれているので、うまく呼吸が出来ない。
こなたもそうなんだろうか。
段々と荒くなっていく呼吸のリズムが扇情的で。
潤んでゆくこなたの唇から離れたくなかった。
「んくっ…」
こなたが苦しそうに眉を潜めたのが見えて、名残惜しいけどチュッと音をたてて唇を離す。
「っ…はぁ、はぁ…」
肩で息をしながら私を見上げるこなたの潤んだ瞳が夕日に映えて綺麗だった。
その瞳には私しか映ってなくて、それが私に幸福感をもたらす。
「こなた」
こなたほど息が上がってない私はもう一回キスしたいという欲望を抑えてこなたに囁く。
「キス、しちゃったわね」
キスという言葉に反応したのかこなたがプイッと私から顔を背けた。
一瞬見えてこなたの耳は明らかに真っ赤で。
普段はエロゲやらギャルゲやらの単語を平気で言うくせに、なんでこうプラトニックな事で照れるんだろう。
まぁそこが可愛いんだけどね。
「…がみ……い、よ」
虫が鳴くように小さな声が聞こえた。
まぁここには私とこなたしかいないわけで。
その声の発信源はこなたしか考えられないんだけど。
未だ顔を背けているこなたの肩にそっと触れて「何?」と聞こうとした瞬間。



「かがみ、ずるいよ」



その言葉とともに再度唇に柔らかい感触。
聴覚と触覚が脳を経由している間に、視覚がこなたにキスされていると認識した。
「んっ?!」
驚きのあまり唇を開くとヌルッとしたものが口内に入ってきた。
「んんっ、こ、な…んぁ」
初めて感じる感覚に必死に今の状況を把握しようとするけど、うまく頭が働かない。
「か、がみ…んくっ」
何か別の生き物みたく私の口内を犯すこなたの舌が気持ち良くて、萎縮してしまっていた私の舌を絡めるとこなたが甘い声を出した。
その声をもっと聞きたくて、歯茎に沿って舌を這わせる。
それにピクピクと反応するこなたを強く抱きしめた。
「はぁ…んむぅ、くぁ…」
こなたからの絡まる舌の力が弱くなっていくのを感じて、ゆっくりと唇を離すとツゥと銀色の糸がお互いの唇を繋いでいた。
それに気づいたこなたが恥ずかしそうに口をぬぐう。
うっわ、これかなりクるわね。
ディープキスをしたという事実が時間と共に実感してきて、お互い気恥ずかしくなって顔を背けてしまう。
それでもやっぱりチラチラと相手の顔を見てしまって、視線が合って照れ笑い。
「そろそろ帰ろうか」
さっきまで真っ赤に大地を照らしていた夕日は、ようやく今日の役目を果たしたのかビルの隙間に消えかかっていた。
まだ一緒にいたいけど、明日も休日だし。
宿題を手伝ってあげるとかいう理由で私の家に誘ってもいいだろう。
ベンチから腰を浮かせてこなたへ手を伸ばすと、私の手を一瞥したこなたが足下に視線を下げて小さな声で呟いた。



「今日私の家に泊まらない?」



と。
いつの間にか消えてしまった夕日の残像を見ながら、この言葉にはいったいどれくらいの言霊が宿っているのだろうか、なんて見当違いな思考が頭の中を掠める。
凛とした青色の瞳が私を吸い込んでいき、私は重力に沿って首を動かした。




 
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