コード・ブルー
□#004
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陽菜の母恵子が翔陽大学附属北部病院に入院してから一ヶ月あまりもの時間が過ぎた。
入院してから一ヶ月、ということは陽菜が母と住んでいた家に一人きりになってからももう一ヶ月が経つというわけだ。
同じ時間に起きて、同じ時間に病院へと赴く。
これが習慣になりつつある陽菜が、今日に限っては未だ家にいた。
「随分と、溜め込んじゃったな……」
日の殆どを病院で過ごしていた陽菜だから、改めて自分の家を見渡せば今までのシワ寄せがどっとのしかかっていたのだ。
洗濯物、掃除、そんな家事の諸々を今日こそはやっつけてから母を見舞おうと決めていた。
それに母の恵子からも「毎日じゃなくても良いのに」なんて言葉も貰い、病人ではあるが一人の時間は欲しいのだろうと思っていた所だ。
「……」
ふと視線をずらせば目に入った立てかけられた写真立てにも薄っすらと埃が被っているのだから、今日のこれはかなりの労働力になるのかもしれない。
掃除機を動かす手は止めずに、陽菜は先日の出来事を思い出していた。
”命を救うのに理由なんていらないって、こういうことなんじゃねえの”
藍沢の言葉だ。
彼らと共に久々に医療の現場に立った感想と言えば、やはり懐かしい場所に帰って来たような、そんな感覚。
頭では、もう医療の現場に立つつもりはないと思っているのにだ。
直接誰かに言葉で言われるよりも堪えたというのが素直な感想だ。
「……休憩」
手を休めてソファーに雪崩れ込む。
そもそも、藍沢が言うように陽菜は今まで病院というものを避けて通ってきたのだ。
その理由が、ここ最近の病院通いのおかげでハッキリとわかってきた。
嫉妬。
患者の命を救おうと奮闘し懸命に処置を施す医療従事者たちの前では、陽菜の決意も他所に「もう一度現場に立ちたい」そんな思いが過ってしまう。
これが嫉妬以外の何物でもない感情だということを思い知らされる度に、陽菜が翔北へと向ける足は重くなる気がした。
その時。
陽菜の携帯電話から軽快な呼び出し音が、音一つない家に響いた。
「はい、赤井です。……え?」
戸締りもろくに確認せずに、陽菜は家を飛び出した。
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