コード・ブルー

□#007
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「貴方はあの晩、何のためにあの場所にいたのですか?」

「人と会っていて、その帰りでした」

「その人物とは?」



陽菜は現在、床に伏せながらも重装備にも思えるスーツに身を包んだ男たちにメモを取られながら質問されている。

これは先日遭った轢き逃げ事件についての事情聴取である。



「……昔の上司です」

「では、事件の事を最初から話してください」



思い出せる事であれば何でも結構です、と付け加えた男たちはその言葉程優しい態度はしていない。

それでも負けじと淡々と話す陽菜。

その話の腰を次々と折っては本調子ではない陽菜が労力を使うのを、病院関係者も心配そうに見つめていた。



「……そうですか。それでは貴方は公道の真ん中から女性を避難させたが、再びそこへ押し戻されてしまったわけですね?」

「いえ、逆上した男性がそのまま私と藤川さんと女性に向かって突っ込んできたので私たちは公道側へ逃げたんです」



被害者であるはずの陽菜に事情を聞いているのに、最初に体を気遣うような社交辞令も入れないのは警察のやり方なのだろうか。

質問するペースもどんどん加速していき、陽菜はそれについていくのが徐々に辛くなる。



「男性には殴られたということですがそれは轢かれる前のこと?」

「はい、男性が掴みかかってきてそれを藤川さんが止めようと、」

「トラックが衝突する瞬間の事を覚えてる?速度はどのくらいだったと思いますか?」

「いや、速度までは……」

「藤川医師を突き飛ばして逃がしたということですがその時の女性は?」

「女性にはそれまで腕を掴まれていたと思うんですがその後は、」

「そもそもどうして男と会っていながら、事件当時は別の男性といたのは何故?」

「そんな言い方、」



未だ呼吸器も装着したままの陽菜がついに追いつけなくなった時だ。

藍沢が陽菜と刑事の間に立ち入り、一言「その辺にしてもらえますか」とだけ言った。

しっかりと藍沢の視線を受けた刑事はそれによって、妙な咳払いをしてから一旦閉口したのである。



「……まだ予断を許さない患者です。無理をさせることは許可出来ません」



藍沢の一言で、見学していた人間全員が刑事の行動に注目していた。



「わ、私どももね、被害者のために真相解明に乗り出しているだけなんですよ」

「刑事さん」



少し空いた間に落ち着きを戻した陽菜が口を開く。



「この件で覚えている事も事実も、以上です」



数人の刑事がバツが悪そうに、出て行った。

また来ますよ、と言い残して。

その中の一人からは舌打ちも聞こえた気がするが、それを誰も咎めたりはしない。



「ありがとう、耕作」

「お前はもっと本調子じゃないのを自覚しろ」



ため息をつきながらそう言った藍沢は、刑事の去った後を不快そうに眺めていた。



「あの刑事肝心な事は言わなかったけど、犯人の方も精神鑑定してるらしいな」

「そうなの?耕作が何でそんなこと知ってるの」

「テレビでやってた」



そんな大袈裟なことになっているのか、と落胆すれば陽菜の身体はまた少し痛んだ。



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