小説等

□存在
1ページ/2ページ





呼び続けないと







「井本ー」


「んー?」



「呼んだだけ」

「あっそ」





「井本ー」



「何?」



「呼んだだけ」


「………」





「井本ー」
「エエ加減にせえよ」







呼び続けないと、駄目なんだ。







         存在




「いだだだだ」


「お前ちょっかい出すんも程々にしときや」

「わ、わはりまひた」





俺の頬をつねる、小さな手。



俺を睨む、綺麗な瞳。





まだ、大丈夫。




まだ、近くにいる。





「なんで俺の名前、連呼すんねん」


「だって昨日むっちゃ恐い夢見たんやもん」

「はぁ?ガキかお前」




井本がいなくなっちゃう夢。





俺は、大丈夫だったのに。





井本は、橋が壊れて落ちてしまった。






「名前呼んで、返事したら、まだ平気ってことやんか」


「何のことやねん」





見えるなら大丈夫。




聴こえるなら大丈夫。




触れるなら大丈夫。






「なぁ、もっかいつねって」

「ドMか」

「ええから」



つねられた所から、痛みが来る。




「お前がつねってるな」


「当たり前やん。さっきからどないしてん?」





井本の手首に触れる。




「俺も触れる」


「藤原ー、頭大丈夫かー」







夢は夢で終わらせたいから。








「この手は離さへんで」


「アホか」









一生、傍に居れる様に。







 
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ