小説等
□シャボン
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彼は虚ろな表情をしていた。
いままで見せたことが無いような、虚ろな表情。
なんでそんな表情をしているのか、僕にはわからなかった。
ふと
彼の目の前を
相変わらず小さくて
不格好な
シャボン玉が横切る。
「……シャーボン、だーま、飛ーん、だ…」
彼が、消えてしまいそうな、かすれた声で、途切れ途切れに歌いだした。
「屋ー根、まーで…飛ーんだ…
屋ー根、まで、飛ーんで…
こーわ、れて……
消ーえ、た…………」
彼の瞳から、涙が澪れ落ちた。
どうして泣くのか、僕にはわからなかった。
わからなかったから
僕も、彼の傍で、呟く。
シャボン玉、飛んだ
屋根まで飛んだ
屋根まで飛んで
壊れて
消えた