図書室

□策略にハニーシロップ
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お日様が私の真上を少し通り過ぎた頃、高く響く鐘の音を合図に席を立つ毎日。


話しかけてくるトモダチに社交辞令の微笑みと背を向けて、振り返らずにざわりざわめく雑踏の間を駆け抜ける。

それはいつものこと。

でも、最近は違う。

ランドセルについた鈴の音に合わせ、柄にも無くステップを踏んでみる。
抑えられない高揚感を胸に、リズミカルに。






「………」



「ッはぁ、…また、いる。」





やっぱりね…



とある駄菓子屋の前

息を整えようと手で顔を扇ぎながらランドセルをベンチの横に立てかける。

出来ればベンチに座りたいのだが、そこには静かに寝息をたてる先客がいた


呑気な先客に向け、溜息あじりに言葉をはく。


「…息を切らした女の子がいるのに、のうのうと寝てるのはどうかと思うな」

「そりゃ悪かったなァ」
「!」






扇がせていた手をはたと止め、まじまじと先客を見つめる。
返事が来ない事を前提に嫌味を溢したというのに…






「ふぁ…あーよく寝たァ…ほらよ、お嬢さん隣空きましたぜ」





一見子供のような仕草で背筋を伸ばすと、お気に入りらしいアイマスクを外し座りなおした。


折角だし遠慮することもない気がしたので、甘んじて隣に座らせていただく






「どうも。お仕事お疲れ様です沖田さん」




「サボってんの分かってる癖に良く言うねェ」




「まぁ…」






鬼の居ぬ間になんとやらとは良く言ったものだ。

ここ数日こうやって沖田さんとお話しているが、彼には公務員らしさが欠けている気がする…







「……」




というか、真選組は何故こんな黒い制服をしているのか。
さっきからお日様の光が反射してまぶしい。





私が目を細めると、それに気付いた沖田さんがニヤリと笑って身をかがめてきた。





「あらら?そんなに俺がまぶしいかィ?いや〜モテる男は困っちゃうな〜小さなお嬢さんにまで好かれて困っちゃうな〜」


そんな言葉に、私はむっと口を尖らせてすねたような表情になる。




「嫌な冗談はやめてくださいよ…小学生からかって楽しいですか…」

「んー、あんたは妙にませてるからからかいがいがねェや」

「…知ってますよ」






親にも兄妹にも先生にも、私を取り巻く大人は皆綿祖に可愛げがないという。


自分を擁護するような言い分だけど、これも個性だ…と私は思っている




まぁ、なんだかんだ言ってあまり気にしていないが


無言で思慮にふける私に気を使ったのか、沖田さんは懐をごそごそとあさりだした。






「これ食うかィ?」


手渡された小箱。見覚えのある赤い色をしている

「これ…酢昆布?」

「知り合いから奪ったんだけど、俺ァあんま好きじゃねェんでェ」



嫌なことでも思い出したのか、少し表情を歪めて不快感を表す。






「(あ…)」





それを見た私の頭には一つの考えが浮かんだが、あえて口には出さなかった。


「っと、酢昆布といえば、私の友達にも酢昆布が大好きな子がいますよ」


脳裏に浮かんだチャイナ少女は、大切な友人だ。

「へェ、ろくな奴じゃなさそうだ」


「そんな事ないですよ。神楽姉は…」
「神楽姉ェ?」



間髪入れずに驚いたような声が返ってくる。
おいおい、姉さん呼びかよ…などとぶつぶつ言っている辺り、あまり快く思っていない相手だったらしい…



「神楽姉と仲悪いんですか?」



彼女は私にとってお姉さんのような存在だから、沖田さんが表情を歪めている理由が分からない


「最悪だァ…視界に入ってくるだけで腹が立つぜィ!さっきもあんたが来る前、」


「え?あー、はぁ…」



私は別に…質問に深い意味があっただけではなく、何の気なしに聞いただけだったのだが…



沖田さんの意外なスイッチを押してしまったようで、くどくどと愚痴をたらしはじめた。


実の所、面白くない。






「で、うぜェことにあいつが…」


「随分饒舌なんですね」


「…は?」


大人しく聞いていた私の脈絡のない言葉に、珍しく沖田さんは戸惑っていた。



「だって、沖田さん、あんまり表情の起伏がないから…

そうやって感情的に話すの珍しいなって。」


「……そうかねィ?」


私の淡々とした指摘を受けて、少し不満げに沖田さんは答えた。

「はい、…いいなぁ神楽姉」



私は膝を抱えて座りなおす。
沖田さんは無言でこちらを見ていた。
口には出さないが、何か言いたそうにしているのが目の端で分かった。



「私……たとえ腐れ縁でも、私、…沖田さんの記憶に残るような人になりたいです」



空を仰いでぽつりと漏らす

私は沖田さんの目にどう映っているのかな







「お嬢さん」



一時ほどの間を置いて、沖田さんもぽつりと言葉を漏らした。



「早く大人になりなせェ

ずっと待っててあげる程、俺ァ優しくねェんだ。」




「え………は、いっ」




今の私にはその言葉だけで十分だ。

早く大人になりたいなぁ









策略にハニーシロップ

(明日もいてくださいね)
(ん)





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総悟くんはやっぱりかっこよいです…

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