小説†

□猫と退治役
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「こいよ、ナオキ。決着をつけようぜ」
そう言った直後、
がりっ
オレの頭に、激しい痛みと衝撃が襲った。
「いってぇ!」
振り返ると、出雲が偉そうに立っていた。
「出雲…」
「覚悟は決まったわけね」
出雲に微笑んだ、その時だった。
出雲が、後方に飛ばされた。出雲は悲鳴をあげる。オレに見えたのは、風だった。
振り向くと、オレと似通った顔が、怒りを表していた。
「…殺してやる」
低い声が、邪気を伴ってオレにぶつかる。ビリビリと、空気が痛んだ。
「お前なんか、殺してやる…。オレをこんなにしたお前は許せない…」
ナオキの目は、怒りを伴って赤くなっていく。オレは、負けないように声を張り上げる。
「それで、いいんだ。間違ってない。オレは退治役であり、お前が吹き飛ばした出雲のパートナーだ。だから」
オレは、手に剣のイメージを抱いた。細身の銅剣が、右手に現れる。
「仕事であり、私怨のために、オレはお前を倒す」
ナオキに切っ先を向けると同時に、後頭部に衝撃を受けた。
「この馬鹿!」
いつの間にか復活していた出雲が、オレの頭に乗った。頭の重さが1.5倍になる。
「何回、公私混同するなって言えばわかるのよ!だからあんたいつまでたっても中級退治役なのよ!」
「うるせぇよこのデブ!重いんだから人の頭の上に乗ってんじゃねぇ!」
「はぁ!?重い!?どこの誰に向かって言ってんのよ!平均体重以下なのよあたしは!」
出雲にかまけていると、目の前から、さっきと比べものにならない邪気が飛んできた。
「誰が無視しろって言った…?」
後ろに飛びそうになるのをこらえて、笑ってみせる。
「腹立ったか?」
「カルシウム不足ね」
人の頭に張りつきながら、出雲は偉そうに言う。
「カルシウムしか食ってない動物が粋がるなよ」
「三半規管の発達してない動物に言われたくないわね」
オレをスルーして、ナオキと出雲が睨み合う。無視すんなっつったの、どこの誰だよ。
今回は、ナオキから仕掛けてきた。背から羽根を出し、オレ等に突進してくる。意外と速い。
間一髪で、それをよけた。そのままナオキから離れる。出雲が、幻影のオオカミを作り出し、それにナオキの羽根をかませる。羽根はオオカミによって千切られる。
「ぐっ…!」
体の一部を壊されたナオキは、低く呻いた。地面に座り込んで、うずくまる。
「大和!」
出雲が頭の上で叫ぶ。その拍子に、爪がオレの頭皮を破壊した。ナオキの真似じゃないが、地面にうずくまりたい。
そんなことを、オレの体が許してくれるはずもなく、オレはナオキに走りよった。そのまま腕を取り、動けなくする。
地面に積もった雪に、ナオキの体が倒れ込む。そのうちに、と〈葬送〉しようとしたところで、気付いた。
ナオキの邪気が、友樹の体から消えていた。
「…っぶね」
友樹に向かっていた術の力を、慌てて引っ込める。〈葬送〉の力は、ただの人間にとっては毒だ。
「大和、後ろ!」
背後に多大な量の邪気を感じ取り、急いで振り返る。が、遅かった。
邪気が間近で飛ばされ、オレと出雲は吹っ飛んだ。ぎりぎりで足を上げなければ、多分友樹の体に引っかかるところだった。
かなりの距離を転がり、なんとか体勢を整えて見た先には、ナオキらしい姿があった。
人間の姿を保ってはいるものの、その姿は今にも雪と同化して、消えてしまいそうだ。姿はほとんどオレと変わらず、横に並んでしまえば、どっちがどっちかわからないだろう。
そのナオキの目が、恨めしそうにオレを射ている。その目を、オレは真正面から受け止めた。
「…ほんとに腹立つ奴だな」
苛立たしげに吐き出された言葉に、トゲはない。
「ほんとに、何でお前が退治役なんだろうな。ほんと腹立つ」
ナオキは静かに後退する。
「こっからは、オレの邪気と、お前の力の勝負だ」
ナオキの邪気が、膨れ上がった。ナオキが本気なのを見て、オレも、力を放出する。吹き飛ばされた時に頭から降りた出雲の前に立つ。
「大和!」
出雲の咎める声。オレは、出雲を見ずに言う。
「頼む。オレにやらせてくれ」
数秒あいて、出雲がため息をついた。
「…長からお咎めくらっても、あんたの所為にするから、そのつもりでいなさいよ」
何故か、オレの口には苦笑いが漏れた。あまりに出雲らしくて、むしろ安心する。
ナオキが、無表情で睨んでいた。邪気は、これまでにないほど、膨らんでいる。オレも負けずに、〈葬送〉の力をためる。
二人の、戦う用意ができた。自然と、笑いが漏れた。
「行くぞ」
真正面そうなナオキに、笑顔のまま頷き返す。
オレ等は同時に足を踏み出した。

最後に見えたのは、あいつの笑顔だった気がする。



第4章 了



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