小説

□オリジナル:素晴らしきかなApril fool
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あぁ、なんて清々しい1日の始まりだろう…。
オレは素敵な笑顔満載で部屋の窓を開けた。
その外から来たのは、招くはずもないいくつかの投石だった。
「だあぁ!」
オレはそれを必死によけた。ナイスだ、オレの運動神経。
「誰だオレの部屋に石を投げやがった奴!」
「オレだぜ親友!」
オレの家の前には、神々しいばかりの金髪男がいた。オレは思わず目をそらす。
「うわ…」
「え!?何その反応!!ひどいじゃないか親友!」
「頼むからオレの家の前で声高らかにそんな恥ずかしいことを口走らないでくれ」
すると金髪の幼馴染みは、ニヤリと微笑んで言った。
「じゃあ家に入れさせてもらうぜ。お邪魔しま〜す」
「なっ!?手前ちょっと待ちやがれ!」
その言葉を聞かず、幼馴染みは勝手にオレの家に入ってきた。階下からは、あら剣ちゃんいらっしゃい、お久しぶりですおばさん相変わらず綺麗ですね、またまたこの子は上手いこと言うんだからそんなに誉めても何も出ないわよ〜?残念だなおばさんのガードは相変わらず固い、とかすごく楽しげな声が聞こえる。そしてその片方の、うちのおばさんがオレを呼んできた。
「ちょっと翔剣ちゃん来たわよ!さっさと降りて来なさい!」
自分が剣ちゃんとやらと話していたいからって、自分の息子を口で使わないで欲しい。

剣ちゃんこと剣一は、昨日染めたらしい金色の髪をさらさらと揺らしてオレの部屋に入ってきた。
「元気か?親友」
「日本人の金髪頭を見なければすこぶるな」
剣一は聞いてるんだか聞いてないんだか真意を計りしれない笑顔でオレのベッドに腰かけた。
「知ってるか?翔」
剣一はいきなりオレに話を振ってきた。
「今日は素晴らしきかな、オレの誕生日だ!」
「染めた反動で頭でも煮えたか?」
オレは剣一に痛々しい一手を加えた。だいたい、オレの方が剣一より早く誕生日を迎えるんだから、オレの誕生日が終わってないのに剣一の誕生日がくるわけがない。
剣一は怯まずに話題を振り続ける。
「じゃあお前の誕生日だ!」
「じゃあって何だ。しかも2ヵ月も先じゃねぇか」
「じゃあオレのペットの誕生日だ!」
「またじゃあかよ。つーかお前やけに今日絡むな…」
剣一はベッドに倒れてごろごろし出した。
「お前に絡むのはオレの使命だし、絡まなきゃオレは死ぬんだ。つーかオレは気付いた。お前ついさっきまで寝てただろ。お前のぬくもりがベッドに残っている」
「さらっと嘘つくなよ。どうせさっき起きたばっかだよ。つかその言い方キモい」
剣一はオレの部屋を自由に歩き回って、本棚にあった漫画を取り出した。その場で開き、歩きながらベッドに戻り、寝転がって読み始めた。
「…おい手前。勝手に入ってきたくせに、部屋の主人に無断で何本読んでるんだよ」
剣一は何も答えずに、本を読み続ける。オレも、何を話しかけても無駄だと判断し、机の上に置いてある読みかけの漫画を開いた。
オレがその本を読み終わった頃、剣一はさっきの本を半分ほど読み終わっていた。オレは読んでいた本をあるべき場所に戻し、机に向かって落書きを始めた。
「相変わらず好きだよなぁ、お前。そういうの」
オレは反射的に絵を隠す。いつの間にか背後にいた剣一が、オレが隠した紙を取ろうとオレの上にかぶさる。
「前から思ってたんだけどさ、翔はあれだよな、漫画家になればいいと思うんだ。だってさ、話の設定考えるのも好きだしさ、絵もそこそこ上手いだろ」
「それはいいからどけ!重い!」
「あ、ひどい。重いなんて。だからお前彼女いないんだよ」
「関係ねぇだろ!だからどけっての!」
結局、オレの落書きは剣一に取られた。オレはその落書きを諦めて、違う紙に絵を書き出した。
「オレとしては、こんな野蛮な男じゃなくて、ナイスバディなお姉さんの方がいいんだが」
剣一が何か激しく自己満足な要望を言っていたが、オレは無視した。誰にだって苦手な物はある。

「じゃあまたな親友!」
そう言って、剣一は家(と言っても隣だが)に帰っていった。うちのおばさんに、ホストのような挨拶を忘れることなく。
結局、剣一に奪われたオレの落書きは帰ってこなかった。
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