小説

□オリジナル:波瀾万丈学園祭
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何故、この日本という国には、学校祭なんてものがあるのだろう。しかも、大学に。
もっと突き詰めて言えば、何故その中に、仮装パレードなるものがあるのだろう。本当に不思議でならない。
「剛ぃ!可愛いぜ!」
「黙れこの野郎!」
なんで俺が女装なんぞせねばならんのだ!?
「よう剛。よく似合ってんじゃん」
女装の原因である幼なじみ、鶴田は、ミニスカートの下の俺の太ももを触った。そのまま尻を触りそうな手を、取り上げて力を入れる。
「触るな」
「いいじゃねぇか。綺麗な御足だと思うぜ」
「ふざけんな。どこのどの男子が、足綺麗って言われたいと思うよ?」
鶴田は鼻で笑って、俺の手を外す。そのまま俺と肩を組んだ。
「こうしてれば、恋人同士に見えるぜ、オレ達」
「止めろ離せ今すぐ離せ」
「つれねぇな」
その時、鶴田が他のクラスの男子に呼ばれた。鶴田はその男子に返事をして、
「じゃ、また後でな」
俺の首筋にキスをした。一瞬で鳥肌が立つ。
俺が殴る前に、鶴田は逃げていった。


今、俺が着ているのはセーラー服だ。ある女子の、高校の制服だ。とりあえず、ある女子については伏せておく。
問題なのは、何故青年男子である俺が、そんなものを着ているのか、だ。
それを反芻するには、多少話が長くなる。
オレの通う大学は、9月に学校祭がある。その中で、クラスの出し物があるのは、高校でも同じだろう。うちのクラスは、仮装がテーマになった。
ところで、うちのクラスには、俺の知り合いが二人ほどいる。一人は、幼なじみの鶴田。もう一人は、高校で知り合った、女子の間宮。鶴田とは、幼稚園から同じ学校だ。
どんな仮装にするか、という話になった時、真っ先に挙手して意見を出したのも、鶴田だった。
「女装にしないか?」
その時の楽しそうな笑顔は、10年経っても忘れないだろう。とりあえず、俺は嫌な匂いを嗅ぎ取った。しかも、その笑顔は、微妙にこっちに向いていたのだ。
「幸いにも、このクラス、女装経験ある奴いるし」
その言葉は、紛れもなく俺に向いていた。クラスの奴の視線も、俺に突き刺さる。
そこで、間宮が余計なことを思い出した。
「そういえば、剛って中3の時女装してたよね。あたしも写真見たことあるだけだけど」
穴があれば入りたい。鶴田が間宮見せた写真は、確かにオレが中学3年の時、クラスの奴等に無理やり女装させられた。その時も、首謀者は鶴田だった。
周りから彼らが楽しそうな声音が聞こえてくる中、俺は鶴田を呼んだ。鶴田は人々をよけながら歩いて来た。
「なんだよ?」
胸ぐらをつかんで、軽く持ち上げる。
「どうやら、俺を怒らせたいらしいな」
「ちょっと待てよ、何の話だ?」
本気でわかってなさそうな声だが、作った表情の口が、微妙に笑っている。
「しらばっくれんなよ、この元演劇部」
「演劇部のエースだったなんて、そんな過去こんなところでばらすなよ。自慢みたいじゃねぇか」
誰もそこまで言ってない。話をすり替えられたこともあいまって、俺の苛立ちは倍増する。
「話をそらすな」
「待て待て、ちょっとした茶目っ気だろ?」
「茶目っ気にも限度って言葉はあると思うんだけどな、俺は」
鶴田は呆れたため息をつく。
「わかってないな、剛。面白ければ何でもいいんだよ、学校祭なんて」
迷わず、鶴田の首を絞める。
「まぁ落ち着け、若者よ」
俺の肩を、鶴田の共犯者が叩く。
俺の肩を、鶴田の共犯者が叩く。
「お前、しれっと俺の前に出てきていいと思ってんのか?」
「カルシウムが足りてないんじゃないか?若者君」
頭をぽんぽん、と叩かれる。
「カルシウムが足りないようなら、にぼしでも食べたまえ」
それを、無表情で言いやがる。
「…お前、俺のことなめてるだろ」
「まさか」
その言葉も、やはり無表情だ。
「面白がってるだけだ」
「なお悪い」
間宮の頭をつかむ。つかみやすい頭で、よくやることだ。
「まぁ落ち着け。それにしても手がでかいな、お前」
「褒めてくれてありがとう。じゃなくて」
「何か不満でも?」
相変わらず、まったく話が通じない。俺は諦めた。
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