小説

□オリジナル:私だけのサンタクロース
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私は、サンタクロースが誰であるかを知り、その上、本来まだやるべきではない仕事をやらされている。

原因は、母だ。
大抵のサンタクロースは、自分の仕事に誇りを持ち、自分の子供にさえ、自分の仕事を教えたがらない。
しかし、私の母は違った。
冒頭の文章を読んだ次の年、母は有り得ない一言を言った。
『人手足りなくなっちゃった。手伝って』
その瞬間、私の夢は全て崩れ去った。
私は、少なからず、サンタクロースという物体に、憧れを抱いていたらしい。それを、目の前で、しかも、信じろ、と言った張本人に崩されたのである。私は、母と私の間にあった、ケーキやら七面鳥やらを母にぶつけた。


そんなわけで、私のクリスマスへの印象は最悪だ。


「や〜っと終わった〜!」
母は、私の目の前で読んでいた本を投げ出して言った。すかさず、私はその本を奪い、母の側頭部に投げつける。
「その言葉、そのまま貴様に返してやる」
「やだなぁ、ちょっとした茶目っ気じゃないか」
私は、その辺にあった分厚いリストを、母に投げようと、手に持った。
しかし、それより先に、母の声が私の鼓膜を震わせた。
 
 
 「ありがとね。助かったわ」
母は、私に笑って言った。
「どっか、食べにいこっか。お腹すいてるでしょ?」
私は、何故か少し照れて赤くなった顔を見られないようにして、答えた。
「…もちろん、お母さんの給料でね」
「子供になんか払わさせませんー」


その瞬間だけ、母は、私だけのサンタクロースなのだ。


しかし、その次の日に、プレゼントを世界中の子供に贈るという、さらなる試練があることを、私はその時、思いきり忘れているのだった。





presdnted by.アヲイ
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