小説

□オリジナル:哀しい話
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「ただいま」
「おかえり。楽しかったか?」
劉が、研究所から帰ってきた(帰ってきたと言っても、炯が寝ていた所に戻ってきただけだが)炯を迎えた。炯は不機嫌そうな顔のまま、感想を正直に言った。
「あいつ嫌い」
「それ研究に対する感想じゃないよな」
炯は劉の隣に座って寝転んだ。
「研究込みの感想。改めて嫌いだ、と思った」
「お前の博士嫌い、本当に変わらないな」
「変わるはずないだろ」
炯はそれを言って眠り始めた。



炯と劉は、生まれながら性別がない。ないというよりも、男女が混ざっていると言った方がいいのかもしれない。
ふたりは、最初捨てられていた。劉がまだ乳児で、炯は青年の一歩手前の時期だった。そんな時期でも、炯の性別ははっきりしていなかった。それを見た博士が、研究対象として連れてきた。
博士の研究により、劉と炯の性別は、両性具有体だとわかった。それ以来、劉と炯は、博士に研究対象として、生かされている。




炯が目覚めた時、隣には、劉が眠っていた。炯は一瞬驚き、それから笑って、目にかかっていた前髪を払ってやった。
「ん…」
劉は、一回唸ってから、自分の髪を触っていた炯の手を握った。
「…劉?起きた?」
炯が訊いても、すー、という気持ちよさげな寝息が聞こえただけだった。その寝顔を見て、炯は笑って呟いた。
「…別に、研究のためでもいいから…ずっと、劉と一緒にいたいな…」

劉の寝顔は、微笑んでいた。




これは、ふたりの哀しい物語…。
 
 
 
 
 
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