小説

□オリジナル:波乱の卒業式
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その頃、彼の学校では、彼が望んだ通りの出来事が起こっていた。
移動やその他諸々が原因で、式が10時15分開始になっていたのだ。
しかし、それもきちんとした打開策ではなく、もう少しで彼のクラスの卒業証書授与が始まろうとしていた。
もちろん、担任は彼の遅刻を知っている。
(頼む渡辺…!早く来い!)
担任は念じる。だが、その祈り虚しく、C組の授与が始まる。担任は、それでも諦めなかった。
C組全体に目をやる。ほとんどの生徒が、頷きを返した。担任は、マイクのところに進み出る。
『C組―』
その声で、C組の生徒は、のろのろと、立ち上がった。担任が保護者席を見ると、顔をしかめた父母が、ちらほらいる。
それに構わず、担任は生徒が全員立ち上がるのを待って、名前を呼んだ。
『太田、美沙子ー』
すると、生徒の方から指摘の声が上がる。
「先生ぇー。青木友美ちゃん忘れてますー」
担任は、マイクから微妙に口を離して言う。
「おう、すまんな青木ー」
これは、事前に彼らが立てていた計画である。
朝、ホームルームの時点で、渡辺がいないのに気付いた担任は、生徒と、もしも渡辺が授与になっても来なかったら、できる限りの時間稼ぎをしよう、と話し合っていたのだ。
だが、それも長くは続かない。
教頭が担任に近づき、耳打ちをした。
「父母の一部から、苦情が出ています。何をふざけているんですか?」
「はぁ、すいませんねぇ」
一見、冷静に聞こえる担任の声だが、心中は穏やかではなかった。
(すまん、渡辺。許せ…!)
渡辺が卒業証書を受け取れないことを悔やんだ、その時だった。



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