小説

□オリジナル:波瀾万丈学園祭
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「そんなに女装が嫌か?」
「当たり前だろ」
鶴田の質問に、即座に答える。すると、鶴田は、ほぅ、とため息をついた。
「嘆かわしい…。昔は平気で女装してたくせに」
「いつの話だ」
「幼稚園」
そう言われて思い出した。昔、体が弱かった俺は、両親の計らいによって、女の子の格好をしていた。一種の厄除けみたいなものだ。
「ずいぶん昔の話だな」
「女装に今も昔もないだろ?」
「いや普通あるだろ」
「年の差なき女装!」
わけがわからない。俺は言い争いを諦めた。こいつに文句をつけようと思ったのが間違いだ。
俺がため息をつくと、何を勘違いしたのか、鶴田は嬉しそうに声を張り上げた。
「剛、女装やるって?それは良かった」
勝手な解釈だ。弁解しようとする前に、今度は間宮が口を出した。
「じゃあわしの高校の制服を貸してあげよう。セーラーミニスカで」
「いやだ。やらない」
俺の主張は、あまりみんなに聞こえていない。
結局、反対という反対をさせてもらえずに、当日を迎えた。
間宮が持ってきたセーラー服を、スカートをできるだけ長くしてはく。自分で見ても、気持ち悪い。
その時、更衣室代わりのカーテンが開いた。
「おい着たか?」
「何も言わずにあけるな!」
着替え終わっていたからいいものの、まだだったらセクハラだ。しかし、カーテンを開いた張本人は、小さく舌打ちしやがった。
「せっかくの着替えシーンが」
「そこ残念がるところじゃねぇから。つーか男の着替え見たがるって、女としてどうなんだそこ」
間宮はその訴えを丸無視して、俺の姿を上から下まで見る。そして、指を差した。
「長い」
もちろん、スカートだ。間宮は膝まであるスカートを、太ももの真ん中あたりまで上げた。
「せめてここだろう。もっと上げてもいいとは思うが」
「ふざけんな!短いだろ!」
「これより短い女子高生だっている」
基準を女子高生にしないで欲しい。言い争いをしている間に、間宮はさっさとスカートを上げてしまった。
「ほらこっちの方が可愛い」
「嬉しくねぇ」
スカートを下げようとしたところで、後ろから風が吹いた。何かと思って見ると、鶴田がうちわを下からあおいでいた。
「何すんだ!」
オレはスカートを押さえる。すると、鶴田は小さく舌打ちした。
「もうちょっとだったのに」
「何を期待してるんだお前らは」
「まあまあそんなことより」
鶴田は、俺の背を押す。このまま、更衣場所から外に出すらしい。
「ってちょっと待て!まだ下げてねぇ!」
「気にするな…よっと」
鶴田は、俺の背を思い切り押した。踏ん張りが効かなくて、カーテンを通り抜ける。

そして、冒頭に戻る。

「剛、呼び込みしっかりしろ!」
「うるせぇ!だったらお前がやれ!」
店の中から飛ぶ怒声に、大声で返す。すると、そこでまた鶴田が出てきた。
「その声でやれよ、剛」
鶴田の胸ぐらを捉える。
「暇ならお前もやれ」
「やだな、全然暇じゃねぇよ」
「どこがだ!」
鶴田は、見た限り、俺を観察しているようにしか見えない。
「それからお前もだ!間宮!」
間宮も鶴田と同じで、俺の観察をしている。しかも、たちの悪いことに、たまに写真を撮っている。
「やだなぁ剛。わしも忙しいんだよ」
「じゃあどう忙しいのか言ってみろ!」
鶴田と間宮は、示し合わせたわけでもないのに、ほぼ同時に言った。
「剛の見張り」
こいつらほんとに友達か?
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