宝物&捧げ物

□冷たくて熱いもの
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「あべくん」

 三橋はふらふらと阿部が座らされたベンチに近付くと、向かい合うようにコンクリートの床に膝をついた。
 
 ダッグアウトの少し暗い照明。試合一つ投げきった三橋の頬は赤みがさし、髪には帽子のあとがついていた。

「三橋」

 阿部が声をかけると、三橋は弾かれたように顔を上げる。 

 じっと阿部の左膝を見ていた眼差しは、何を考えているのか容易に窺わせない不思議な表情をしていた。

 スタンドのエール交換が、まるで膜を一枚通したかのように聞こえる。

「三橋、ナイスピッチング」
「う、うん。――オレ……」

 何かを言いかけ、再び唇を結ぶ。

 そして、やはり膝を見るのだ。

 そのやるせないほどの眼差しに、阿部はぎりりと唇を噛んだ。

「悪い……」

 約束。

 阿部の言葉は最後まで続かなかった。三橋が、阿部の患部を覆う氷嚢を退け、サポーターのマジックテープに手をかけたのだ。

「――見せて、阿部君」
 濃い蜜色の双眸は炯々と光を放ち、阿部に奇妙な圧迫感を与えた。まるで呑まれるように頷いたときには、赤く腫張し、所々紫色になった皮膚が現れていた。

「――思ったより腫れてないね」
「あ、あぁ」

 応急処置が速かったため、症状はある程度で押さえられている。

「良かった……」

 三橋は聞き逃してしまいそうな声で、呟く。

 そして。

 そっと、そこに口づけた。
「――!」

 冷えて感覚の鈍くなった表皮に、それは焼きごてのような──キスだった。


おわり

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