宝物&捧げ物
□柔よく剛を制す?
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真冬。
柔道場。
吐く息は真っ白で、ついでに着ている柔道着も真っ白、ほとんどの奴が授業の柔道しか知らないから、帯だって白い。
『柔よく剛を制す?』
7組・9組合同の体育の授業は、ただいま乱取の真っ最中だった。
あちこちから、「うおりゃ!」「よいしょーっ」と本気なのか遊んでいるのか分からない野太い大声が響き、バッタン、ドスンと重いものが畳に打ち付けられる音がする。
「はまだ! 呆けてんなよ!」
はっとした浜田が視線を約15cm下ろすと、黒目がちの大きな瞳とかちあう。つやつやした黒髪と、ふっくらした頬にニキビ痕の散った元後輩現クラスメイトが、少し息を弾ませながら立っていた。
始まる前は、あんなに「さみーよ!」と浜田に当り散らしていたが、体を動かして温かくなったら機嫌が直ったらしい。
現金すぎて可愛らしすぎる。
「やろーぜ!」
身長差のことなどスコンと抜け落ちているらしい泉は、勝気な双眸を輝かせて構えをとっている。もちろん浜田を畳に這わせる気まんまんだ。にやり、と笑う顔のなんて攻撃的なこと!
「おー。寝技でいっか?」
対して、にへら、と締まりのない顔で言った途端にぐいと襟を取られ後に押された。「ちょ……っ!」たたらを踏んだ軸足を思い切り刈られ、浜田の体はふわりと浮いた一瞬後には尻から畳に落ちる。
「ってぇ!!」
泉、イキナリやんなよ!
少々憐れっぽく畳に懐く浜田を泉は無言で見下ろすと、「ちゃんと受身取らないオメーがわりーんだろ」と嘯く。
「ほんと、オメー学習しねーのな」
浜田は飼い主に叱られた犬よろしく、うなだれながら「失言でした」と頭を下げた。