宝物&捧げ物

□君を抱きしめたい
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『君を抱きしめたい』


「あ……あの!これ使ってください」

 丁度教室に戻る階段を一緒に昇っていた時のことだ。
 その女子は、よりにもよって田島がいる目の前で、俺にそれを突き付けてきた。
 いや……その女子は俺たちの関係はただの友達つうか、部活仲間にしか思っていないんだろうけど。
「ふーん、よかったね。花井」
「……」
 心なしか田島の声が半音ほど低い。
 年中お天気なコイツにはありえない声だ。
 それこそ
「別にあの女子とは知り合いでも何でもねぇよ!」
「どーなんだか……とにかく開けてみたら?」
 田島は俺の肩に肘を置いて、じとっとした目でのぞき込む。
 俺はしぶしぶ袋を開けた。
 そこにあるのは手の甲のトコに猫の刺繍がついた白いミトンの手袋。
「………………俺、誰かと間違えられてないか?」
「か……カワイイい!!にあう、花井、ゼッタイ似合うよ!!」
 さっきのじと目はどこへ行ったのか。
 田島は腹を抱えて笑ってやがる
 そこまで笑うことねぇじゃねぇか?
 つーか俺的にはもっとヤキモチを持続させて欲しかったんだけど。
「ねぇねぇ、はめてみてよ」
 後ろから抱きつかれ、頬をくっつけてそう言う田島に。
 俺は顔から耳まで熱くなるのを感じた。
「あのな……」
「オレが許す!はめてみてよ」
 さらにぎゅっと後ろから抱きしめられて俺は、たまらなくなる。
 て……手袋より、今すぐお前を抱きしめて。
 抱きしめて。
 だーーー!!俺、完全にコイツにやられていないか!?
 もう、こうなったら、田島の言いなりだ。
 俺は言われるが儘に手袋を嵌め……あれ?嵌め……ん!?
 手袋はいくらがんばっても指から先が入らなかった。
 中途半端に嵌めた手袋を見て、田島は。
「……ホントに誰かと間違えられたのかも」
「……」
 俺はそんな田島をじっと見詰める。
「え?何?」
 きょとんとする田島の手を捕らえ、その手に白い手袋を嵌める。
 すると。
 なんとサイズがぴったり!!
 俺は手袋を嵌めた手首を掴み、田島の方に振り返えってにやりと笑う。
「どうやら、お前がその誰かって可能性が高いな」
「え……でも……」
「本当はお前、あの女子と知り合いなんじゃねぇの?」
 俺は言いながら田島を階段の踊り場のコーナーに追いつめた。
「そんなことはない!誓ってない!ゲンミツにない!!」
「ムキになって否定するのがアヤシイ」
「む、ムキになんか……」
 それ以上の言葉は言わせなかった。
 俺が田島の唇を唇で覆ったからだ。
 手袋なんかどうでもよかった。
 ヤキモチを焼くコイツが可愛いし、ムキになって否定するコイツも可愛い。
 今すぐ抱きしめたい衝動が抑えられなくなった。
「な、何すんだよ!?イキナリ」
「お前が悪い」
 俺はぎゅっと田島を抱きしめる。
「ど、どうしてそうなるの!?」
「お前が悪いんだよ」
「……」
 田島は何も言わなくなった。
 その代わり俺の背中に手を回してきた。


 結局手袋は、田島がもらうことになった。
 だって俺の手には入らないし。
 本当に田島にあげたものかもしれないし。
 あの女子勢いのまんまだったからなぁ。
 後に、その手袋は俺でも田島でもない、別の人物にあげたつもりだったということが判明した。



                              
おしまい


 

 ◎田島君の「ゲンミツ」はIKK●Oさんの「どんだけ〜」と同じぐらい、私の中ではあやふやな言語である。

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