宝物&捧げ物

□かまくらの中で(花井編)
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 朝、いつもより暗いな……と思ってカーテンを開けると外は大雪だった。
 道理で昨日から寒いと思った。
 なんつーの?
 いつもよりも芯から冷える寒さだったから。
 あー、こりゃ学校も休みだろうなぁ。
 当然部活も。
 いや……あの鬼監督だったら雪をかき分けてでも、走ってグラウンドまで来い!とか言いそうだけどな。
 たぁぁっ!!、今日だけは勘弁してくれ。
 吹雪の中の練習風景を思い浮かべてしまい、俺は思わず頭まで布団をかぶった。
 しかし、その直後。
「梓ー、学校から電話よ」
 母親の声に俺は反射的に飛び起きる。
「梓って呼ぶんじゃねぇ!」
 一体何回言ったら分かるんだ!?
 俺は駆け足で階段を降りて、居間にくると母親がくすくすと笑いながら受話器をわたす。「だって、そう呼んだら早く起きるでしょ?」
 く〜〜〜、ワザとかよ。
 やられた!
 俺は歯ぎしりしたい思いをとりあえず於いておいて、電話に出ることにした。
 電話は案の定、学校休校の連絡網だった。
 やれやれと溜息をついて、のろのろとした足取りで部屋に戻ると携帯が鳴っている。
 ディスプレイには、田島悠一郎の五文字……って、うお!?田島から!?
「もしもし!?」
『おっはよう!花井、起きていた?』
 受話器の向こう、底抜けに明るい声が聞こえる。
 外は大雪でもこいつの頭ん中は年中快晴だよな。
 でも、朝から電話越しに、そんなこいつの声聞くのって、凄く新鮮でドキドキする。
「ああ、さっき学校からの連絡網が来てたたき起こされたトコ」
『やっぱりね!オレん家にも今来たトコ。学校休みになっちゃったね』
 ………………あ、そうだ。
 学校休みだとコイツに会えないんだよな。
「ああ、そうだな」
『あのさ、今日そっちへ遊びに行ってもいい?』
「……え?」
 田島がウチに!?
 そ、そんな。まだ心の準備が。
 それにベッドだってシーツが皺だらけ……いや、部屋に来るからといって、ベッドを使うよーなことがあるとは限らないのに、何を俺は!?
 その一瞬でよからぬ妄想まで至ってしまった俺に対し、田島は無邪気な声で言った.。
『お前ん家の近く公園あっただろ?、そこでかまくら作りたいんだ』
「………………かまくらかよ」
『なんだよ、そのイヤそうな声!』
「だって寒い」
『なんだよ、花井の年寄り!とにかくそっちへ行くからな!オレは』
「おい、勝っ手に決めるな」
『だって早くお前に会いたいんだ。いいだろ!?』
「─────」
 そんな殺し文句を言われて、「イヤだ」と言える奴がこの世にいるだろうか?
 あ、でも阿部あたりなら言いそう。
 そうじゃなくて、田島がこっちに来てくれるなんて。
 こんな雪の中なのに……自転車は当然使えないから走って来るんだろうな。
 あー、とりあえず着替えよ!
 早く着替えて、田島を迎えにいこう。
 ぱっぱと普段着に着替え、ジャケットを着て二階の階段を駆け下りる。
「どこへいくの?ご飯は?」
「昼に食べるわ。ちょっと出かけてくる」
 母親にそう告げながら靴を履く。
 あー!こんな時に限って靴ひも取れてやがるし!!
 すぐさま靴ひもを直し、俺は雪の中外を飛び出した。
 そして携帯電話をジャケットのポケットから取り出し、田島に電話を掛ける。
「おい、田島。今どこにいるんだ!?俺もそっちへいく」
『ええ!?ワザワザ迎えに来なくても』
「俺も早くお前に会いたいから」
『 ───── 』
そう、一秒でも早くお前に。
 外は風も強く、雪の塊が顔に容赦なく当たる。
 本当に吹雪の中、ダッシュすることになるなんてな。
 でも、野球でしごかれるのとはワケが違う。
 走る先にはあいつがいる。
 学校以外の場所で、あいつに会えると思うと吹雪のランニングも苦にはならない。
(田島、田島、田島ーー!!)
 心の中で、俺は思いきりあいつの名前を叫びながら走っていた。
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