宝物&捧げ物
□勝負!
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浜田はぐるりと柔道場を見渡す。
そこには、男ばかりが整列して、授業開始の号令を待っていた。
『勝負!』
本日の授業は、7組、9組(奇数割り)合同の柔道だ。真冬の柔道場の畳は素足に冷たくて、右足の裏を左足の甲に擦り付けてみたりするが、たいして暖かくはならない。
周囲は、一様に柔道着を着ている。中には黒帯もいるが、やはりそれは少数派だ。浜田自身も素っ気ない白い帯を締めていた。
ふ、と、7組の列にいる花井と視線がかち合う。
「ちわす、」
浜田に気づいた花井が、律儀に小さく頭を下げた。
互いに周囲より頭一つ分突き出ているから、7組と合同体育の時にはこういうときがたまにある。もっとも、花井は浜田のように何の気なしに眺めているわけではなく、個性豊か過ぎる野球部員の動向が気になってのことだろう。
集団の前方には、つんつんした黒髪と、ほわほわしたこげ茶色の髪が並んでいる。こそこそと何か話しているようで、二人の肩は楽しげに揺れていた。
体育教諭が道場に入ってくると、すぐに授業は始まった。
準備体操やストレッチで体をほぐした後は、受身の練習が始まる。バシッ、バシッと畳を打つ音が、柔道場のあちこちで響いていた。その頃になると、体も充分に温まり、額にうっすら汗をかくまでになる。
「三橋、しっかり受身練習しとけよ」
過保護なキャッチャーが飛ばした檄に、田島とじゃれるように練習していた三橋が、ぎくーっと飛び上がった。が、その後にキレイに後受身をキメてみせて、周囲の喝采を浴びていた。