短篇
□ホットミルク
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「こっちは?」
「なーいっ。」
「じゃあここは?」
「……ない!」
男はうーんと一つ悩むと、彼女を一度下に下ろして開けた冷蔵庫を閉めた。
「寒かったねー」
「ねーっ!!」
ほうっと冷えてしまったのか、ほっぺたを両手で抑えた彼女は困ったように首を傾げた。
「困っちゃった?」
どうしたら納得するか悩みながら、彼女と同じ背丈に合わせて膝立ちになって背を丸めた男は小さな頭に手をぽんと置く。
「こまっちゃったねー」
困ってしまったらしい彼女は、更に首を傾げてしまう。
「じゃあ探しても見つからないなら違うの作るか。探してたのより美味しいかわからないけど、どう?」
「つくるっ!!」
彼女は笑うとぴょんとはねた。
ピロッピロッピロッ
間の抜けた電子レンジの音が響いて、男がそこから大きめのマグカップと小さなマグカップを取り出した。
大きめのマグカップには星が、小さめのマグカップにはクマの絵が描いてある。
カップの中はホットミルクで、それを取り出したら八時を差した時計から、鳩がひょこひょこ飛び出した。
「はいよ、熱いからね。冷ますんだよ」
「ひゅやっ」
言ったそばからいきなり口をつけて、じたばたと走り回る。
「危ないからっ!!カップ置いてっ!!お願いっ!!ぎゃあーっ!!」
円卓の回りをくるくると走り回る彼女の手からカップを取り上げると、彼女が座るのを見届けてから男はよいせと隣にゆっくり腰を下ろした。
「だから冷ませって言ったでしょが!!」
「あーんっ!!」
未だにひりひりするのか抗議の声を上げた彼女は舌を出してふうふうと息を吐いた。
「自分のベロ冷ましてどーすんだ」
しゃーないと取り上げたマグカップの中を冷ます為に、ふうふう吹いてやると、彼女はおもむろに立ち上がって同じように息をカップに向かってふいた。
「もうできる?」
「だいじょぶ」
「はいよー、今度は気をつけるんだよ」
それから二人してふうふうと。
暫くの間は静かな部屋にその音だけが二人を取り巻いた。
「おいしねー」
「そうだねー」
すべて飲み干して、体が温まったのかこくりこくりと船を漕ぎ出した彼女は、いつの間にか男の膝にもたれ掛かるようにして寝てしまった。
「あーあ、寝ちゃったよ。
俺ご苦労様……」
あふっとかみ殺しきれなかった欠伸の余韻が口端からもれる。
ふと手の先に紙が当たって、それをつまみ上げると、再びなんだろうなと呟いた。
「黒ペン渡したのがまずかったか……」
そう言って手近にあった上着を彼女にかけてやると、男もいつの間にかうつらうつらと頬杖をついてまどろみ始めた。
「ただいまー、お守りと留守番ありがとー」
「おかえりー、なあねぇちゃん。これって何の絵?こいつが描いたんだけど俺には理解しがたい――」
「ああ、これはアイスの絵」
「アスーっ!!」
「嘘だっ!!しかもこんな雪の中なんでアイス食べたくなったしっ!!」