おお振り
□初夏
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暑い夏が
はじまる……
夏休み……なんてないようなもんか…今の俺らには。
毎日毎日部活で練習にあけくれてるからなぁ…
でも、高校入ってからの練習って何か楽しいんだよな。俺ってば、中学ん時こんな楽しんでたか?いや、きっと今の部活だから、このチームだからなんだろうな…
あんなに厳しい練習の後でも誰も弱音吐かなくなってきたしな。まぁ家に直行だけどね…
みんながダラダラと帰って行くから俺も帰るか、と部室を出るとベンチんとこに誰かまだいた…
多分…篠岡…いや、絶対篠岡だ…
俺は見つけるやいなや、駆け寄っていた。
………ハズ///俺…///
「篠岡っ」
何かやけにでけぇ声が出た。
「あ、栄口くん」
おつかれ〜と言って振り向いた。
「うん、おつかれ。篠岡は…まだ仕事してたの?」
こんな暑いとこで、俺らと一緒にずっと外にいたのに…
「う〜ん、あと今日はボール磨いて終わりかな
栄口くんは帰んなくていいの? みんな行っちゃったけど… 」
「……手伝いしてい?」
コレ、チャンスって考えちゃう俺って…
篠岡は、ダメダメっ早く家帰って体休めなきゃって言って断ってきたけど、ちょっと無視して俺はボールを磨きはじめた。
「あー!!こらっ!」
「50球だけ、…ね?」
「………20球。」
そう言って篠岡は仕方なく諦めたようだった。
何分かは二人で黙々と磨いていたが、俺はさっきから気になっていることがあったので沈黙を破って聞いてみることにした。
「なぁ、篠岡のそれ、その麦わら…すごいのな」
篠岡はボールにあった視線を俺に一瞬やり、被っていた麦わら帽子に移した。
「コレねー、いいでしょ!頭ぼぉ〜っとしなくなったんだ」
「へえ〜、…でもこんなデカいのどうしたん?」
どう考えても年頃の女の子が持ってるようなもんには見えないが……
「え…っとね…田島くんが持ってきてくれたの」
…何照れてんの?
「…へぇ田島が」
田島という名前が出た時はさして驚きはしなかった。だって最近のあいつは“篠岡は〜”“篠岡が〜”って連呼してたし。
それよりも…それよりも俺は…“田島”の名前を言った時の篠岡の顔がすごく可愛かったことに悔しくて…苦しくなった。
それでも何分かして、動揺して止まっていた手をまた動かし始めた。
「よしっボール磨きも終わったし、そろっと帰るか」
言いながら…田島の…篠岡の帽子にぽんっと軽く手を置いた。
すると、サイズが大きいせいか篠岡の顔が半分隠れてしまった。
「えっもう!?」
帽子を被り直しながらボールの入っていたカゴを見て驚いていた。
「さっき俺が取ったやつで終わり!…二人の方が早いだろ?」
篠岡の顔を覗いてみた。
「うんっ、ありがとう、栄口くん助かったぁ」
あ…笑った。今、笑った。俺の方向いて、多分…俺だけにだったと思う。…嬉しい…///
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「じゃぁチャリ持ってくんね」
「うん。」
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「篠岡…また、手伝いしてい?」
「だ〜めっ!これはほんとはマネジの仕事!栄口くんの仕事は練習後は帰って休むことなんだから!」
即答……でも、それが俺を思って言ってくれてることにちょっと嬉しくな
ったり…
「でも、無理して篠岡が倒れんなよ」
「うん。ありがと。」
……こんな一言で盛り上がっちゃってる俺とか、田島の麦わらに何かムカついたり(田島ごめん)する俺とか、よく考えたら、すげぇ恥ずかしいけど……何か…嫌いじゃないかも。
出遅れてしまったかもしれないけど
この勝負まだ始まったばかりだ。