おお振り
□右斜め前の横顔
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隣でもなく。
前でも後ろでもなく。
夏休みが終わり、二学期が始まって三日経った。
担任がいきなり、席替えをすると言い出した。
いきなりの提案にもクラスの奴らは誰も反対しなかった。
まあ、春から席替えしてなかったし、みんな名簿並びにも飽きていたんだろう。
俺もその一人。
前の席はもう十分だ……
毎回毎回、年の始めは前の席って決まってるからな…
その点、花井はいいよな。後ろだし………あ、クソレ、……水谷もか。てかアイツさらに窓際、羨ましい。
そんなことを考えてると俺がくじ引く番になった。
(…まぁ前じゃなきゃどこでもいいや)
……42。
(あ、窓際一番後ろ。)
全員が引き終わり、机と椅子をもって新しい席へと移動する。
「あ!阿部〜どこだった?」
机を引きづりながら前の方にやって来るのは水谷。
ったく引きづんなよ…
(あれ…てか…こいつ前か?)
「何笑ってんの?怖いんだけど!」
「お前前の方なんだろ!くじ運
ねえなぁ〜ククっ」
「なっ、いいんです〜勉強頑張るんです〜」
(後ろじゃ頑張んねえのかよ)
「阿部は?また前?」
ニヤつきながら言うんじゃねぇ…キモイ。
「…俺は窓際一番後ろ。」
質問に答えるとすぐに机を持ち上げて水谷から逃げた。ぎゃぁぎゃぁうるさそうだしな…自分の運の無さを恨め。
…端から端は遠いな。やっと机を置いて、椅子を下ろす。座ってまだガヤガヤしている教室を見る。
…景色が全く違う、何か教室を見渡せるっていいな。
窓を覗けばグラウンドも見える。
「…あれ、阿部くんそこ?」
声をかけられ教室の方に目を戻せば、篠岡がいた。
「よいしょっ」
どうやら席が斜め前らしい。
持っていた机を新しい席に置き、椅子に座ってこちらに体を向けた。
「いいなぁ…一番後ろ。」
「あんまかわんねぇだろ、そこと。」
「気分的に違
うじゃん…何か」
「…まあ…な」
隣はいねぇし、誰の目にも止まんねーしな。
「えっと、じゃぁよろしくね」
「おう」
昼休みは俺の席の周りで弁当を食った。
「阿部後ろか〜いいな。」「花井は…真ん中だっけ?」
「俺後ろの子に悪いな。」
花井の後ろは…あぁあの女子小さいもんな。
…花井でかいもんな。縦に。…横にもでかくなってもらいたいんだけどな。うちのチームあんまでかい奴いねぇし。
「…まぁしょうがねぇじゃん。あの女子のくじ運が悪かったんだよ」
「それ励ましになってないよ…阿部…」
「…あの〜ごめん、ちょっとかばん取ってもいいかな」
三人で話していると、水谷の座っていた所に篠岡がやって来た。
「ん?あ、ここ篠岡の席なんだ。ごめん借りてる」
首を振りながら、
「ううん、どーぞどーぞ。あたしかばん取りにきただけだから」
そういってかばんをとって中からタオルと軍手を取り出した。
「え、篠岡…それどうすんの?」
花井の質問の答えは俺も気になった
「え、えーと…ちょっと草むしりに…」
苦笑いで答える篠岡。
「え、もしかして昼休みもやってくれてたの?」
花井が急に立ち上がって篠岡に近づく。
「え、いつから…てか、昼休みまで…やっててくれたんだ…どおりでいつも綺麗なんだなマウンド」
「そんな…///あたしが勝手にやってることだし、こんなことしかできないから…」
顔を赤くしながら俯き加減に篠岡は言った。
「そうだったんだ…ありがとー篠岡っ。でも今度からは手伝うよ」
水谷の言葉にいきなり顔を上げる。
「ううんっ、これはマネジの仕事だから!みんなには野球に集中してほしいの!」
急にでかい声だして言うもんだからびっくりした。
「わ、わかった…///」
「うん、じゃぁ行ってきます」
そう言って走って教室を出ていった。
「…何顔赤くしてんの?」
水谷の顔を覗き込みながら聞くと
「だって、だってさ…篠岡ずっと俺の目見てしゃべんだもん///あんなでっかい目で見られたら、何かそらせないし…何か吸い込まれそーだし///」