おお振り

□練習台
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定期試験前なので部活もない。仕方なく俺は教室に残って勉強することにした。


教室には俺一人。数学の問題に向かっていると廊下から話し声が近付いてきた。

「俺ちょっと先生んとこ行ってくるね」
「うん、わかった。じゃぁ教室で待ってるね。」

そんな会話の後、ガラガラと戸が開き、篠岡が入ってきた。
「…うわっ、阿部くん!!びっくりしたぁ」

「………」
そんな驚かなくても。
「あ、勉強してたんだ?」
「…あぁ、まぁ。……篠岡は…栄口まってんだろ?」

えらいねーとか言いながら、勝手に俺に感心してた篠岡が目を見開いた。「な、なんで知ってるの!?」
「いや…廊下の声聞こえただけだから。」
「あ…そっか…うん、栄口くん先生に呼ばれちゃってて。」
「あっそ…」

篠岡と栄口が付き合いだしたのは知っていた。……俺は両方から恋愛相談を受けていたから。
「……何?また何かあったのかよ」
俺のいる机の横から離れず、無言でいる篠岡に聞いてやった。
そうすると篠岡はまた驚いたのか目を見開いた。「な、なんでわかるの!?すごいよ、阿部くん!」
「……分かりやすすぎ…で、何なんだよ」

篠岡は少し考えたふうにした後、深刻そうに言った。
「…あのね、………あたし……キ、キスが……下手なの…」
「は!?……肝心なとこが聞こえねーんだけど。」
「だ、だから!…キ、キスが…「はぁ!?何!?」
「もぅ〜キスがうまく出来ないって言ってるの!」「え…キスって…」
急に赤くなる篠岡につられて自分も赤くなっていくのがわかった。
「……///ていうかこんなことまで相談されても阿部くん困るよね///ホントごめんね、今のは忘れてください////」
「……驚いただけだから。……お前悩んでんだろ……あ、」
「え…ちょ、ん…」
「……お前、ほんとキス下手くそだな…こりゃ栄口も…」
「い、いきなり何するの!?し、信じらんない!!」
俺が触れた唇を必死で袖で拭う篠岡。
「…お前がキスうまくなりたいっていうから練習台になってやるっていってんだよ」
「私、そんな言い方してない!!」
その時、ガラガラと戸が開く音がした。
「…あ…ごめん、篠岡迎えにきたんだけど、……悪い…俺…」
栄口は何か言いたそうにしながら後ろを振り向き戸に向かった。
「待って、栄口くん!!違うの、今のは…」
慌てて篠岡は俺が掴んでいた手を振りほどいて栄口の方へ駆け寄ろうとした。でも、俺はその掴んでいたいた手にさらに力を込めた。
「離さねー」

栄口は教室から出ていった。篠岡は少し涙ぐんでいた。俺はこの二人が駄目になればいいのにと思った。
ほんとははじめから気付いていたことだった…。

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