書庫(D.Gray-man小説1)

□コムリン事件簿
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長い廊下を歩いて来る人影が一つある。
エクソシストの神田ユウだ。
腰まである髪を高い位置で縛り上げ、特注のコートを羽織っている。
日本人らしい東洋系のすっきりした顔立ちで、クールだが短気という二面性を持っている優男だ。
一見見ると異性に嫌われる様な外見では決してないが、とんでもない事に、彼は周りの人間の殆どに怖れられていた。
何故なら、任務遂行の為なら仲間さえも犠牲にし、いつも不機嫌な表情を崩さず、近寄り難い雰囲気だからだ。
そして今日もいらつく気分のまま恐ろしいオーラを放っていた。
彼を何故ここまで怒らせているのか。
それは今朝方の出来事だった。



『見てみてカンダ君!やっと僕のコムリンが完成したんだー』

そう言っていきなり神田の部屋にノックもなしに入って来たコムイを返り討ちに合わせ、抜刀したまま何の事だと脅せ……吐かせれば、長年ひっそりと皆に内緒で作っていた強力兵器が出来たと言うのだ。

『凄いいい出来なんだー、君にも是非見て欲しいな』

先に行って待ってるねー、とだけ言い残し去って行ったコムイの事などどうでもいい、シカトしようと思ったのもつかの間、入って来る際、コムイの強烈な蹴りを喰らって壊れた扉を見て、神田の怒りは爆発した。

『チッ、ぜってぇ許さねぇ、ギタギタにしてやる』

と意気込み、コムイのいる研究室に行こうとしていたのだった。







「おいコムイ!テメェよくも俺の部屋壊しやがって!そこに立て、この六幻で斬り裂いてやる」

やっと着いた研究室に入った途端、神田はすらりと腰に挿した刀を抜き、脅そうとした。
が、目の前に立っていたのはコムイではなく、見た事のない変なメカだった。

(何だこいつは?俺に喧嘩売ってんのか?いい度胸だ、受けてやろうじゃねーか)

と機械相手にガンを賭けていたら、そのメカの奥から本来怒るべき人物、室長のコムイが顔を出した。
ピンとコーヒーの入っているカップを持っている右手の小指を立たせ、にこやかに挨拶をする。

「やぁカンダ君!来てくれたんだねー。紹介するよ、僕の最高傑作、コムリンです!」

可愛いでしょー?
ボディなんかピカピカだよねー。
生まれたてみたいじゃない?
実際作りたてなんだけど。
ほらこの帽子なんて僕とお揃いなんだよー。
いいでしょー?
羨ましいでしょー?
等と親馬鹿なコムイを見ている内に、神田の怒りは冷めていった。

(馬鹿だこいつは)

と、逆に呆れて来た程だ。
神田自体よく言えば単純、悪く言えば馬鹿なのだが、今回の意見は的を射ている。

「コムイ、俺はこいつじゃなくてお前に用があって来たんだ」

コムリンを指差しながら神田はコムイを見た。
背筋が寒くなる位冷徹な目をして。

「何?」

「テメェ俺の部屋の扉ぶっ壊しやがっただろ!?その落とし前付けて貰おうと思ってなぁ」

六幻を突き付ける。

「さっさと直して貰お……」

言葉が出て来なかった。
コムリンが優雅にもお茶を飲んでいたのだ。
機械の腕を器用に動かし、ゴクゴクといい飲みっぷりだ。
目の前で繰り広げられた異様な光景に、神田は口を閉ざした。

「おい、こいつ機械だよな?紅茶飲むのか?」

「いや?飲めない筈なんだけど……バグかな?」

それだけならまだ耐えられた。
一般人なら普通は引く所だが、こいつらにはどうって事ないのだ。
教団にいる時点で、これ位の事では取り乱さない。
問題なのはその次の行動だ。
恐れ多くも、コムリンは神田の取っていた出前のソバを食べてしまったのだ。
つるつると美味しそうに食べていく。
機械なので、味覚があるのかどうかは判らないが、その食べっぷりは、そう感じてしまう。
食べられていく。
神田のソバが。

「あーっ!俺のソバ!テメェコムリン、何しやがる!?首落としてやろうかあぁ!?」

機械といえどもソバを食べられた怒りのままに、神田は六幻を抜刀した。

「一幻!」

六幻を横に一振りすれば、その波動は一直線に敵に当たる。
コレを喰らってコムリンは倒れると思っていた神田だったが、コムリンはいとも簡単に攻撃を避けた。

「何っ!?」

驚きを隠せないまま、また六幻を振るう。
だがまたも避けられる。
神田とコムリンはそのまま斬り合った。
結果は……



「ふーっ、やっと倒れたかこの野郎!」

「あーっ、ぼ、僕のコムリンがぁ!!コムリィィン!!」

神田が勝った。



それから教団内では、神田と対等に渡り合った英雄、として一時期の語り種になった。
これを記念して闘技場にコムリンフィギュアを飾ろうという意見も出たとか何とか……。



それからまた、教団でコムリン事件が起こるとは誰も予測していなかった。
END
 

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