書庫(D.Gray-man小説1)
□存在の定義。
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俺は誰とも深く関わらない。
俺の存在意義は、ただアクマを倒す事。
そして、また今日も……――。
「ハハハ、人間だ!おい、人間がいるぞぉ。やったー」
神田は、森の中でアクマと対峙していた。
次の任務先まで行くにはこの細い森の一本道を通って行った方がいいと思い歩いていたのだが、裏目に出てしまった。
神田は忌ま忌ましそうにちっ、と短く舌打ちした。
まぁいい。
こんなレベル1のアクマ、どうって事はない。
幸い、向こうも自分がこの世で唯一アクマと戦える人間――エクソシストだとは判らない様だ。
……アクマは、俺が倒す。
神田は無言で腰に挿していた刀、『六幻』を手に取った。
すらりと抜刀する仕種は、戦い慣れている様を感じさせる。
アクマは、自分を見ても逃げ様とせず、逆に刀を向けた神田が気に食わなかったのか、可笑しそうに小さく首を傾げると、いきなり砲弾を撃ってきた。
砲弾に当たった近くの木々は、ペンタクルのマークと共にパン、と爆発する。
普通の人間ならば、そのアクマのウイルスの砲弾に触れるだけでウイルスに身体中を侵食され、粉々に砕け散る。
だがそれは、あくまで普通ならば、だ。
神田は六幻を構えると、高く跳躍した。
そして、刀の腹に右手の人差し指と中指を当てると、六幻がうっすらと発光し始めた。
――六幻、抜刀。
次の瞬間、六幻が神田の意志を読み取り、強く輝いた。
「界蟲一幻!」
神田が六幻を横に一振りすると、龍の様な異形のものが現れた。
それらは一直線に敵に向かう。
硬質を誇るアクマの身体が、ボロボロに喰い破られた。
「何だ、こいつ!?俺の身体が……!お前、何者だ……!」
「お前、自我があるのか。もう少しでレベル2になるんだな」
神田は言葉の割に特に驚きもせず、冷徹にアクマを見下ろした。
「俺は、エクソシストだ」
六幻を構えたまま、神田はきっぱりと言い切った。
「こいつはイノセンスでな。幾らお前らが硬くとも、この六幻の前ではそんなものは役に立たない。肉を斬るより簡単に、その身体を真っ二つに出来る」
神田は六幻をアクマに見せ、馬鹿にした様に言う。
神田の話を黙って聞いていたアクマは、一気に笑い出した。
「そうか、お前が千年伯爵の言っていたエクソシストか」
アクマが漸く笑いを鎮めたら、その目は殺す事が堪らなく楽しい、という色をしていた。
「ならば、俺を倒してみろ。エクソシスト!」
アクマが砲弾を次々に打ち出す。
神田はそれをいとも簡単に避けて、アクマの懐に入り込み、六幻で斜めに斬った。
アクマがぐっ、と呻く。
「……流石だな、エクソシスト。だがお前らは千年伯爵には敵わない。いつか、この世界を闇が飲み込むだろう……」
「うるせぇよ」
そう言って、神田はもう一度六幻で今度は横に斬り裂いた。
アクマの身体が爆発する寸前、神田は小さく呟いた。
「んな事、俺がさせねぇ」
そしてアクマは塵となって消え去った。
その光景を、神田はただ無情に傍観していた。
俺はエクソシスト。
誰とも深く関わらない。
俺の存在意義は、この世に蔓延るアクマを倒す事だけなのだから。
そして、その先には……――俺の望みがある。
END