書庫(D.Gray-man小説1)

□怖がりな願い……
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怖いんだ。
ユウが、俺の前から消えてしまうのが。







俺は、アレンから聞いた情報を頼りに、医療室ヘ来ていた。
俺の目の前には、ベッドに寝かされているユウの姿。
どうやら、任務先で大怪我を負ったらしい。
教団に着いた時には、既に意識を失っていた様だ。
しかし、それ程の傷を負ったにも拘わらず、ユウの身体はもう治りかけていた。
それも全て、ユウの胸に彫られた梵字のせいだ。
けれどそれは、同時に所有者の命を蝕んでいく。
そして、ユウの治癒力は確かに遅くなってきていた。
……残されたユウの命の残量。
それに対して何も出来ない己の不甲斐なさに、俺は拳を握り締めた。
顔を下に向けた時、ユウの左手の指がピクンと動いた気がした。

「ユウ!!」

俺がその手を取って呼び掛けると、ユウの瞳が薄く開かれた。

「……ラビ?」

ユウの声を聞いてホッとする。
ようやく意識が戻った様だ。

「よかったさ、ユウ……」

俺はユウを抱きしめる。

「おいっ、ラビ?!」

ユウが驚いて声を上げる。
けれど俺はそれを無視して更に強く抱きしめた。
そして、つい口に出てしまった疑問。

「ユウは……ずっといるよね?」

搾り出す様に言った俺の問いに、ユウは当然の事の様に言った。

「はぁ?何言ってやがんだ、テメェ。俺がそう簡単に死ぬかよ」

「うん……だよね」

今、俺が抱きしめている身体は温かい。
ユウは生きてる。
だからこそ……――

「でも、ゴメン。まだ抱きしめてていい?」

「チッ、勝手にしろ」

「ありがとう」

抱きしめていたい。
話していたい。
温かさを感じていたい。
ユウの『生』を実感させて。
そして、いなくならないで。



これは、怖がりな俺の願い。
END
 

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