書庫(D.Gray-man小説1)

□最も必然に近い奇跡。
1ページ/1ページ

仏教の思想の中に、『輪廻転生』と呼ばれるものがある。
肉体は滅んでも、魂は幾つもの生を乗り越えるという事らしい。
ならば、俺が死んだらこの魂をアイツの所に運んでくれ。



魂ガ全テヲ忘レテシマウ、ソノ前ニ……――







『別れてくれ』

俺がそう言うと、アレンは訳が判らないのが半分、恐怖で半分という顔をした。

「……は、何言ってるんですか?神田らしくないですよ?」

俺はアレンから顔を背けるべく横を向く。

「……本気、なんですか?」

「……あぁ」

小さく、だがハッキリとそう言う。
アレンは声を荒げた。

「何でですか!?僕達ちゃんとやってこれてたじゃないですか!?」

アレンが俺の肩をガシッと掴む。
触れられた所から、アレンの体温を感じた。

「……僕の事、嫌いになったんですか……?」

違う。
そんな訳ない。
俺はお前を愛してる。
けど……――。
多分俺達は、別れた方がいい。

「そうだ」

別れなければいけない。
だってもう、俺には時間がないから。
『未来』なんてものは、馬鹿な俺達の理想に過ぎない想像図なのだから。
その証拠に、もう俺は……――死ぬんだ。
悲しい思いをさせてまで、アレンの隣にはいたくない。
俺の死に悲しむお前を見たくない。
だから……――

「別れてくれ」

肩からアレンの掌の体温が去る。
すると、急に寂しく感じた。
心が、身体が、お前を手放したくないと叫んでいるのに。

「……もう俺に近付くな」

突き放してしまう。
床に、液体が垂れるポタッという音がした。

「アレン……?」

アレンは泣いていた。
その美しい銀灰色の瞳から、涙を流していた。
その姿は痛々しく、神々しくもあった。

「……判りました」

アレンは、フイッと身を翻して部屋から出て行った。



そう、これでいい。
これでいいんだ。
けれどもし、祈りが叶うならば……――



俺が死んだら、魂はアレンに会ってからまた新しい生を始めてくれ。



きっと『死』は生きるものの運命であって、避けられないものだ。
だから死ぬのは仕方がない。
けれどせめて、許されるならば……もう一度アレンに会いたい。
会って、伝え切れないこの思いを伝えたい。
だって……――



君に会えたのは、最も必然に近い奇跡なのだから。
END
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ