書庫(他小説)

□とある悪魔の面白哀しい物語。
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俺の弟は人間だ。

南十字男子修道院。
そこで俺達は育った。
ここにはジジイと双子の弟が隣同士で眠ってる。
似合わない白い花なんて持ってここに訪れたのは、今日が弟の命日だったからだ。
もう何年も前の事だ。
一緒に成長していた筈の俺達だったけど、俺が悪魔に覚醒してから、俺の成長は止まった。
いや、止まった様に見えるだけ。
それが100年で1歳老ける位だから、人間感覚にしてみたら不老不死も同じだ。
気付いたら俺の背丈を越えていた弟だったが、更に気付いたら段々俺より縮んでいった。
髪も白髪が多くなって、あんなに好きだった俺特製の手料理もあんまり食べなくなった。
座って過ごす事が多くなって、俺が車椅子に乗せてよく散歩に連れ出してやった。
まだ元気そうだったのも束の間、最終的には寝たきりになった。
もう80歳を越えていたから仕方のない事かも知れないけど。
カサリと花束を弟の墓前に手向ける。
しゃがみ込んで、墓標と同じ位置に視線を定めた。
まるで向かい合って話してるみたいに。

「……好きだったろ、白い花」

確か好きな花の名前も生前聞いた気がするけど、俺は頭が悪いから覚えられなかった。
確か白い花だったのは覚えてる。
お前の名前からして、お前が好きそうな花だったよ。
あーあ、お前が生きてる内にメモの一つでも取っといてやるんだった。
ごめんな、雪男。

「俺はまだお前ん所には行けそうにねーわ」

昔から兄さん兄さんって俺と一緒に居たがったお前には悪いけど。
でもお前の事だから、きっと『いいんだ、兄さん気にしないで』って言ってくれるんだろうな。
お前がゴーストとしてまだ近くにいたなら、会話も姿も見えるのに。
死んですぐ、あいつはちゃんと旅立ったみたいだ。

「後な、お前の孫が子供を産んだよ」

見せて貰ったけど、びっくりする位、お前に似てた。
格差遺伝?だっけ、多分それだよな。
男の子らしいから、きっと成長したらお前そっくりになるだろう。
堅苦しく真面目な性格になっちゃったら、生まれ変わったんだと思う事にしよう。
仲間も知り合いも、皆次々死んでいく中で、お前は一番最後まで一緒にいてくれた。
ありがとな。

「……さてと。わりぃ、そろそろ行くわ」

僅かに痺れてきた両脚を伸ばし、そう投げ掛ける。
メフィストの奴に頼まれてた任務があるからな。

「またな、雪男」

うん、またね、兄さん、なんて声は聞こえないけど、ちゃんと俺には判ってる。
また来年、ここに来るよ。
end
 

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