書庫(他小説)

□例え世界に逆らっても……――
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『あまつきの支配者となるか、破壊者となるか……どちらを選ぶ?』

これは夢だと信じたい。







「……き……とき」

(誰か、呼んでる?)

「鴇!」

「っあ……。し、ののめ……?」

目を開くと、そこには心配そうに俺の顔を覗き込む篠ノ女と天井が見えた。
どうやら寝ていた様だ。
光りが眩しい。
まだ夜にはなっていない。

「どうした?昼寝してると思ったらうなされてて……大丈夫か?」

「……うん、大丈夫だよ」

篠ノ女の助けを借りて上体を起こすと、何時間も使われていなかった筋肉が『きしり』と軋んで痛んだ。
喉も渇いている。
少し掠れた様な声が出る事が証拠だ。

「……ん?」

部屋の障子が開いている。そこから廊下が見えたが、そこには床に散らばった沢山の本があった。
どうやら篠ノ女はこの部屋を通る時に俺の呻き声を聞いて、驚いて入って来てくれたらしい。

「本……ごめん」

篠ノ女にとって、本は大切なものなのに。

「いや、別にいい」

いつもならば『おどかすな』と一蹴されるが、今回はそんな事はない。
余程酷いうなされ方をしていた様だ。

「悪い夢でも見たか?」

「悪い夢、……なのかな?」

悪いのか、いいのか。
判らない。
夢を見た事は確実だけれど。

「あまつき……とか何とか言ってたけど、一体どういう夢だ?」

「あまつき……」

(確か、梵天が出て来て……なんだっけ?)

記憶が、靄<もや>の掛かった様に思い出せない。
断片だけでも掴もうとするが、霧<きり>の様に掠めるだけで、実体がない。
頭を押さえていると、やはり俺を心配した篠ノ女が『もう少し寝とけ』と布団を掛けてくれた。
それから俺の額に大きな掌を乗せる。

「熱はねぇ様だな。……朽葉や坊主には俺から言っとく。もう一眠りするといい」

「うん。ありがと」

俺が瞳を閉じると、ようやく篠ノ女も安心したのか再び立ち上がって部屋を出て行く。
でも俺は……――

「篠ノ女、行くの?」

引き止めてしまっていた。篠ノ女が驚いて立ち止まる。
それから一息吐いて、廊下に散らばった本を拾ってから、さっきと同じ位置に腰を下ろした。

「もう少し居てやるよ」

「ごめ……」

「いいから謝るな。好きでこうしてるだけなんだからよ」

篠ノ女は俺を見下ろしながらそう言ってくれた。
とても優しい声音で。
その声を聞くだけで、安心出来る。

(……あまつき……)

正直、俺はあまつきが未だによく判らない。
梵天が教えてくれたが、それも一部分だけで、まだまだ謎がある筈だ。
雨夜之月……――『あまつき』。
俺は、支配者か破壊者か……。
決められないし、決めたくもない。
それが、例え世界に逆らっても……――。
この生活を、壊したくないんだ。
静かな室内に、パラパラと本のページをめくる音がする。
篠ノ女が本を読み始めたらしい。
その規則的な音が耳に心地よくて、俺は深い眠りに引き込まれた。
大丈夫。
次起きたら、篠ノ女がいてくれる。
何も怖くない。
俺は、意識を手放した。
END
 

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