家訓

□昔
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今から10年前か、刹那が誘拐された。
金銭を要求されるわけでもなく、ただただ警察が回りで行方を追って俺達兄弟は家で待っているしかなく
警察から言われるのは「親は!?」という言葉だけで。
いないといっても信じてもらえず、親が1人だけ息子を連れて出て行ったのではないかなどといかにも虚言を言っているように疑われるなど
そんなこと疑う前にまず刹那を探せと怒鳴った気がする

そのときは、小さい子が好きな、いわゆるロリコンな30前後の男が刹那を誘拐し
家に無理やり引き釣りこまれ、5日目で発見されたため何も被害が無かったのだが
刹那を盾にしようとした男は刹那の前で射殺された
そのときの恐怖は刹那の中で10年ずっと生き続けているのだ
だからなのか、身体は成長期なんて知らぬというほど成長の影を見せない。
隣の家のフェルトと同じくらいの身長なのではないだろうか?
タダでさえこの兄弟は背が高いのに、刹那だけ・・・

「刹那、起きろ」
何故こんなことをいきなり思い出したかといえば
久々にベッドにもぐりこんできた弟が額から汗を流し苦しそうな表情で寝ているから
「刹那」
「ん・・・」

タオルで汗をふき取ると
「大丈夫だ・・・」
何時もどんな夢だったか聞くのだが、覚えてないと言い張る、なぁ刹那、
お願いだからまた自分の中に閉じ篭らないで欲しい。10年かけてここまで癒されたのに、お願いだから
もうあんな思いはさせたくない

「・・・ロックオン?」
「あ?あぁ。どうした?」
「眉間に皺よってるから、どうしたのかと思って・・・」

心配しているのが心配されてどうするのだろう
「なんでもないよ、そういえば、隣の妹さん、お前の先輩なんだって?」
「・・・あぁ、ネーナといったか。でも殆ど学校来てないらしい」
義務教育だからなぁ、引きこもりってわけじゃないから、理由はあれだろう。
このまえ雑誌撮影の時一緒になったなぁ、

「そういえば、隣の長男?ヨハンさんだっけ、ネーナちゃんが言うには専業主婦らしいんだけど、俺このまえ駅前の会社に入るとこ見たんだよなぁ」
「俺も見た」
やばいとこ見ちゃったのかなぁ・・・
しかし26歳ってきいて驚いた、そしてそれで専業主婦はないだろう、と聞いたら
「うちのヨハ兄はすぐセクハラ対象になるから駄目なの」
と返事が返ってきた。
どんな兄さんだよ、とつっこみたかったがそういえば雰囲気がアレルヤに似ていた。
ああいう顔や性格ってねらわれやすいのか?
アレルヤも高校卒業したら働かずに専業主婦になってほしいけど、アレルヤの性格じゃぁ無理だろうなぁ・・・
皆働いてるんだからと働きそう・・・
はっきりいってうちはもう家計苦しくないし(ティエリアの稼ぎが思うより良いのだ)
4人食わせる力も今はあるから
「刹那は高校受験頑張れよ〜」
「まぁ大丈夫だろう」
その自信、中学校の頃の俺に欲しかったよ・・・






「兄貴!」
「なっ何・・・?」

俺に睨まれてビクっとする兄にひるんではいられない。何故って、

「働いてるだろう!」
兄貴はすぐ顔に出るから目線が泳ぐ。
「なんで働くんだよ、またあんな思いしたいのか!?」
前に働いていた頃には男女関係なくセクハラされ、やめたら今度は上司が
ストーカーになるという最悪な状態にまで陥ったのだ。
だからこそ兄にはもう専業主婦でいてもらおうとネーナと相談したのに
この兄はやはり人が働いているのに自分のみ家で、という考えにはどうしてもなれないらしい。
友人にみはらせておいて正解。やはり仕事を決めてきて数週間前から働いているらしい。しかもまたセクハラまがいなことを受けているとか、
「なんで家にいらんないんだよ?」
「ミハエルも、ネーナも働いているのに、俺だけ働かないのは!どうかと思う・・・」

こんなに頑張らなくてもいいのに、
数年セクハラを受け続けても会社にいたのは兄妹を支えるためだったとストーカー被害を受けて初めて知った俺とネーナの絶望感は相当なものだった
だからこそ今度は兄をゆっくり休ませてやろうとネーナとモデルになることを決意したのに
これじゃぁ何のためになったのか解らない

「駄目だ」
「だって・・・」
「俺の奥さんになったと思えばいい!」
「は?」
「専業主婦なんだからさ、そう思えばラクだろ、家庭を守るって意味でもさ」

ちょっとした告白じゃないかと思うが

「。。。俺は男だから」

この兄にはまったく通じないらしい・・・



END

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