頂き物

□「どこでもここでもそこでもいがみ愛」 90000hitキリリク小説
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「おい」
「なによ」
「ここ間違ってるぜ」

一瞬二人の周りから冷たい炎が立ち昇った。

「あら、本当。わざわざすみませんね〜」
「いいえ、いつものことですから。お気になさらず」

二人は極上の笑みをペタッと貼り付けた。

そんな二人を周りは遠巻きに見守っている。

「本当にいちいち目聡く見つけて下さるんですもの、その眼力には頭が上がりませんわ」
(いちいち厭味ったらしく持ってくるんじゃないわよ、この小姑が)

「そんなことありませんよ、だって秀麗さんのことですからつい気になってしまうんですよ」
(はっ!当たり前だろう。お前をいじめるネタを俺はいつでも探してるんだぜ?)


その頃にはしんと部屋に沈黙が降る。

「いやだわ、そんなこと言うなんて…皆さんが見ている前で。照れてしまいますわ」
(人前で恥かかせてずいぶん楽しそうね。モテないわよ?)


「お気になさらずに、僕が勝手に想っているだけですから。いつも僕ばかりが秀麗さんのお間違いになったところを持ってくるので、嫌われないかそれだけが不安なんです」
(当り前だろう?こんな愉快なことはないぜ。第一、間違うお前が悪い。それにお前俺のこと好きだろう?)


「嫌うだなんて、おほほ。いつも感謝してますわ」
(自惚れるんじゃないわよ。いつも迷惑だわ)


「そうですか、それはよかった」
(そうか、後でみてろよ?)


「あぁ、清雅さん。ここの書類に不備がありましたよ」
(望むところよ)


清雅はちらりと目を通す。

それから一度ふんっと鼻を鳴らした後踵を返していった。


その時皆は思った。

((こっ…こわ〜〜〜いぃ!!))

と。


それから時間はあっという間に過ぎ退出の時刻となった。

「では、みなさんお疲れ様です。すみません、お手伝いできたらいいんですけど今日は用事があって…」

秀麗はニコッと笑った後に申し訳なさそうな顔をした。

「いいえ!お気になさらず!これは自分の仕事ですから!!」

と少し頬を紅潮させ、瞳を輝かせながら官吏は応えた。

「時間内に終らせられないてめぇらが悪いんだぜ?」

と清雅はいささか冷たく言い放った。

官吏たちはビシッと固まる。

「ち、ちょっと!そんな言い方ないじゃないの!みんな頑張ってるのに!!」

「そんなこと知るか。俺はあくまで本当のことを言ったまでだ」
「ほんとあんたって最低ね!こん…」
「それ以上喋ったら口ふさぐぜ?」
「……」

小声でぼそりと囁かれた言葉に秀麗は固まる。

冷汗かいたり青くなったり隅っこに避難していた官吏たちは急に静かになった上司たちを恐る恐る見る。

すると彼らの愛し尊敬すべき上司は顔を引きつらせながら言った。

「おほほ…。ではみなさん頑張ってね」

そう言うとさっさと帰ってしまった。


「おい…」

「なんだよ…」

「婚儀からどれくらいだ?」

「確か…二か月だな」

「だよな?」

「うん」

「俺たちチャンスはあるかな?」

「無理だろう。見ただろ?あの射殺せそうな目」

「あの方は独占欲強いからなぁ」

「それにしても…」

その後に続く言葉はなかった。

何故ならばそれはずっと言っているからだ。

つまり…。


『あれで夫婦かよ』


と。





 
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