頂き物
□思い続けて幾星霜 フリーリク作品
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その日、黎深は朝から気持ち悪いくらい上機嫌だった。
長い付き合いの百合や玖琅には、その理由が分かっていた。
二人でげんなりした顔をし呟いた。
「「あんたに嫁いだわけじゃない…」」
……そう、今日は秀麗が絳攸に嫁ぐ日なのだ。
思い続けて幾星霜
「−−…秀麗、その…後悔、してないか…?」
「後悔だなんて…私には絳攸様しか見えてないです」
薄い夜着に身を包んだ新婚の二人が、寝台の上で正座して向かい合っている。
これから初夜…そう考えただけで絳攸は汗がだらだら流れるし、秀麗も心臓がドキドキしている。
二人が結ばれるにはそうそう困難はなかったのだが、唯一の難所といえば黎深だった。
叔父として名乗って貰わなくては結婚に支障が出るわけだが、黎深はガンとして首を縦に振らなかった。
それほどまでに秀麗に嫌われるのが恐ろしかったのと、絳攸に対する嫌がらせも若干含まれていた。
そんな最大にして唯一の関所を、邵可に助けてもらいつつ乗り越えた絳攸だったが、当の関所は秀麗の思わぬ反応にコロリと態度を変え、「早くお義父様と呼んで貰うんだ!」などと煩くせがみ、最短の吉日を選んで二人を結婚させたのだった。
思い返せば振り回されっぱなしではあったが、それでも秀麗と夫婦になれて良かったと思うし、邵可を義父と呼べることにも嬉しさを感じる絳攸は、心の中で黎深に礼を言った。
そして、先程の会話に戻る訳だが……
(…ど、どうすればいいんだっ!)
楸瑛だと緊張を解すような言葉も出てくるだろうが、生憎そんな知識は皆無に等しい。
絳攸が固まったまま思案に暮れていると、秀麗からそっと絳攸に触れてきた。
びくうっ!と飛び上がる絳攸に、秀麗は苦笑する。
自分だって緊張している。
でも、やっぱりこの人に触れて欲しい……
そんな恋と愛の入り交じった気持ちが秀麗を動かしたのだった。
「…絳攸様…」
少し掠れた声が、秀麗の緊張を物語っている。
絳攸は腹を括り、秀麗を抱き寄せた。
「−−…勝手は全く分からん。だがお前を愛しいと思う気持ちに嘘はない。…秀麗、愛している…」
「…はい、私もです…」
二人はどちらからともなく口付けしあい、絳攸はそのまま秀麗を寝台に押し倒した。
絳攸の手がそろりと動き、夜着の紐を捉える。
すっ、と結び目を解き、袂をあらわにしようとしたその時−−
「−−しゅーれいー!お義父様とお茶しないかい?」
バタンと扉が開かれ、満面の笑みを浮かべた黎深が二人の寝室に乱入してきたのだった……