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□「侵蝕 〜終わりの始まり〜」 三万打フリー小説
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−−誰かこの状況を打破する術を教えて……
そうでないと、私……
侵蝕 〜終わりの始まり〜
雨が降る早春の日。
秀麗はいつものように仕事をしていた。午後には長官に提出しなくてはいけない書類がある為、若干焦りつつ筆を走らせていた。
「今日に限ってタンタンがお休みだなんて!…まぁ昨日から凄い咳してたから、仕方ないけどね…」
秀麗の裏行である蘇芳は酷い風邪をひいていた。昨日は無理をして(静蘭の恐怖のお願いのせいで)出仕していたのだが、その無理が祟り、医師から絶対安静の指示が出てしまった。
「…大丈夫かしら、熱もありそうだったし…」
元気になったら日頃の感謝も込めて、蘇芳の好物をお弁当に作ろう、そう考え、秀麗がフ…と微笑んだその時−−−
「−−ほぉ、流石は紅御史。長官への提出書類もニヤニヤしながら書けるとは」
この世で一番嫌いな人間が現れ、秀麗はあからさまに不機嫌な顔付きになった。
「−用がないなら出てって!」
「誰が用がないと言った?」
清雅は大股で秀麗に近寄り、秀麗の顎を掬い上げ、唇を重ねた。
「−−っ!」
直ぐに秀麗は突き放すが、逆に腕を掴まれ抱き寄せられる。
「−−何すんの…っ!」
秀麗は力を込めて清雅の胸を押すが、清雅の腕はビクともしない。それどころか、再び顎を持ち上げられ、必然的に清雅と見つめ合う。
「……」
弱みを見せてはいけない−−秀麗は唇を噛み締めて清雅を睨み返す。
しかし、いつもなら嘲笑で見返す清雅が何故か無表情なのに気付き、秀麗は逆に嫌な予感がした。
(…何で…?)
その瞳はまるで硝子玉のように一切の感情が消えている。
危険、危険、キケン−−
秀麗の頭の中で警鐘が鳴り響いたその時−−
「−−…きだ…」
清雅が小さく囁いた。