お題

□05. 口にすれば終りそうで
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「ね、まだ帰らないの?」

「ああ」

何かと仕事の多いこの男。

それでも最近、この男も結婚したばかり。

つまり新婚ほやほやというやつだ。

「帰って欲しいのか?」

「さあ?」

どうだろう、と呟いて清雅の机案に近づいた。

「あ、資料借りていくわよ。」

先ほどから何だかんだと言いながら室に居座る秀麗。

資料を手にしようとしたその時、腰をさらわれ距離が近づいた。

「構って欲しいのか?」

「別に、そんなんじゃないわよ......だから離して」

わかっているのだ。

所詮、政略結婚。

清雅もそう言ってた。

言ってた。

けど、相手は?

酷い女。

私が?彼女が?

そんなこと考えたくもないし、考えるほうが愚かだ。

こんな関係、早く終わってしまえばいいのに、と思ってはいるけれども終われない。

否、終わらせられないのだ。



「清雅」

秀麗は自ら抱きつき清雅の首に手を回し口付けた。

触れるだけの唇と唇。

唇をゆっくり離し、見上げると端正な清雅の顔が、口の端を上げて笑む。

(――悪そうな顔)

こんな顔、きっと見れないでしょうね。

そう思うと腹の底から笑いがこみ上げてきて、思わずふきだしてしまった。

「馬鹿な奴、おい帰るぞ、支度しろ」

「もう帰るの?」

「ああ、一応新婚なんでね」

「そう」




口にすれば終りそうで




(帰らないでなんて、言えない)


 
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