●JOJO●

□次に会う時は
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「いらっしゃいませー。」

自動ドアの音に気付いて本棚にハタキをかけながらも首だけは入り口へ向けて来客へあいさつをする。

高校を卒業するのと同時に特にやりたいこともなかった僕は街では大きいとも小さいともいえない書店の社員になった。
大好きな本に囲まれて過ごすのはとても幸せだったしいくらか穏やかな気持ちになれた。

初めのうちは色々な失敗を重ねて散々怒られたものの3年近くたった今はそんなこともいい思い出だったりする。
入社当時はなにもかも人のせいにして自分の失敗を認められなかったり悪態をついていた子供だった僕に対しても店長は見捨てる事もなく親身になって根気強く指導してくれた。そのお陰で最近ようやくいっぱしの社会人として成長できたと本当に感謝している。


今日は小春日和で温かい日差しが差し込む店内は気持ち良い。
うっかり気を抜いたら眠気が襲ってきそうな陽気だった。
僕は漫画雑誌のコーナーになっている本棚の掃除を手早く終えると奥にある音楽関係など専門の雑誌が置いてあるコーナーへ足を向けた。
(あれ?)
僕はそこで見覚えのある後ろ姿を見つけてふと立ち止まる。髪はいくらか短いけれど服装や足元に置いてあるギターのハードケースからして人違いとは思えない。

とりあえず本棚を整理するふりをして隣へ行って横目で顔を確認する。

それは間違いなく4年程前、刑務所に身柄を拘置された男。音石明の姿だった。
ギターマガジンを手に取ってパラパラとページを捲ってなかを確認していたようだったがこちらの視線に気付いたらしく目が合った。
「間田。」

相手が僕の名前を呼ぶ。僕はどうしていいかわからずに目線を泳がせた。
…なんだか複雑な気持ちでいっぱいだった。どうせ僕の事なんか見ても声も掛けないだろう思っていたし…。
「…う…うん。久しぶりだね。」
その場しのぎの精一杯の笑顔を作る。
正直な話僕はこの男がとても苦手だった。なにものをも圧力で支配しようとするその性格と人を常に見下しているような態度が怖くて仕方なくて出会った当時は脅されて命令されるがまま窃盗や障害事件の片棒を担がされたりしていた。

「お前もしかして社員なの??よく就職できたな…。」
…余計なお世話。お前に言われたくないよと内心思ったがそう言いたいのを押し殺して黙っていた。
「んな嫌そうな顔で睨むなよ…。悪かったよ…。お前でも成長するんだよな。」
どうやら無意識に僕の悪い癖で感情が顔に出てしまっていたらしく音石はそれを見て困ったような顔をした。
こんな顔をみるのは初めてだった。
昔だったら間違いなく「なんか文句でもあるのかよ」などと胸ぐらを捕まれて脅されていたに違いない。
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