novel

□Sincerity
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vol.1


 二人を乗せた筋斗雲はサタンシティの上空まで来ていた。

「お父さん、ここでいいです」

 悟飯がそう言うと、人気のない路地に筋斗雲を下ろした。

「じゃ、オラここで待ってっから。オメエを連れて帰えらねえと、またチチにどやされるかんな」
「わかりました」

 悟飯が立ち去ろうとすると、

「悟飯」

 悟空に声をかけられた。

「頑張れよ」

 悟空はそう言うと、親指をピシッと立てた。

「はいっ!! いってきますっ!!」

 悟飯も同じように親指を立てた。


 とにかくビーデルを探そう。

 悟飯はビーデルの気を読んだ。

 ビーデルはこの近くの上空を飛んでいるらしい。

 悟飯はグレートサイヤマンに変身し、飛び上がった。

 飛び上がって少しするとビーデルのエアカーが見えてきた。

 悟飯は大きく手を振り、こちらに気付いたビーデルを誘導して地上に降りた。

「どうしたの? 悟飯君」

 ビーデルは不思議そうな顔をしてエアカーから降りてきた。

「あのですね……」
「悟飯君、顔色悪くない?」

 既にグレートサイヤマンの扮装を解いている悟飯にビーデルはそう言いながら近付いてきた。

「い、いえっ、大丈夫ですっ!!」

 悟飯は熱のせいもあるが異常に心拍数が上がってるのがわかる。

(緊張する……)

 こんなこと初めてだ。こんな風に同じ年頃の女の子に贈り物をするのは。

(こんなに…緊張するなんて……)

 この異常な緊張。どうしたらいいんだろう。

「悟飯君?」

 ビーデルの大きな目が覗き込んで切る。

 その目を見ていると更に吸い込まれそうな感覚に陥る。

(ダ、ダメだ!! 頑張るんだ!!)

 悟飯を自らを奮い立たせようと、心の中で気合を入れ、カバンから紙袋を取り出す。

「あ、あの……これ、バレンタインのお返しなんですけど……」

 悟飯はそう言って紙袋をビーデルに差し出した。

「私に……?」
「え、ええ」

 少し恥ずかしそうに俯きながら、それでいて上目遣いで見上げてくるビーデルの頬を少し色付いている。

「開けていい?」

 紙袋を受け取ったビーデルははにかみながら悟飯に聞いた。

「もちろんです」

 どう思ってくれるだろう? 気に入ってくれるだろうか?

 カサカサと音を立てながら、ビーデルは紙袋の中のものを取り出す。

「……これ……」

 ビーデルが手にしているものは普段ビーデルがしているものとよく似ている黒いグローブ。

「あ、あの……ビーデルさんのグローブが随分使い込まれてるみたいだったから……ビーデルさんの手を守るものだし……」
「……」
「……?」

 グローブを握り締めて黙ったまま俯いているビーデルに、悟飯も戸惑った。

(もしかして……気に入らなかったっ!?)

 確かにバレンタインのお返しにグローブはないだろう。グレートサイヤマンの扮装を格好いいと言う、どっちかと言えばセンスも良くない、野暮が服を着ているような悟飯がこれでも何日も何日も思案した挙句、リストバンドにするか、このグローブにするかで迷い、結局このグローブ落ち着いたのだが……。

 まあ彼にしてみれば彼女のことを考えた上でのことで……。

「……す、すみません……気に入らなかったですか……?」
「……のよ……」
「え?」

 微かにだが、ビーデルの消え入りそうな声が聞こえた。

「違うのよ」

 今度ははっきりと、ビーデルの声が聞こえた。

「嬉しいのよ……すごく……」

 その大きな目は潤み、僅かに揺れていた。

「……だって悟飯君……私のグローブが痛んでいたことまで見ていてくれたんでしょ? 嬉しいの……」
「……ビーデルさん……」

 頬を染めて、嬉しそうに微笑むビーデルを見ていると、悟飯の心臓は大きく跳ねる。

 こんなにも嬉しそうにしてくれている。それだけでこんなにも嬉しくなる。

 そして悟飯は思った。

(これは告白のチャンスかも知れない!!)

「ビーデルさん、僕……」

 身を乗り出し、喉まで出かかっている言葉を口にしようとしたその時、この世が大きく回ったような気がした。

「あれ?」
「悟飯君っ!?」

 回る世界には、突然の出来事に驚くビーデルの顔。


 悟飯の記憶はそこから途切れた。



vol.3に続く
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