novel

□愛しいあなたへ―Jealousy is a little spice. ―
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vol.1


「悟空さ、おらをブルマさの所まで送ってくれねえだか?」

 チチは朝食をかき込んでいる悟空に向かって言った。

「ん? いいけど……オメエ、昨日もその前も、ここんトコ毎日ブルマん家行ってんじゃねえか?」

 米粒を口のまわりにいっぱい付けて悟空は問うた。

「お母さん、今日も一緒にトランクス君の家に行くのっ!?」
 悟空とそっくりそのまま、口のまわりに米粒をいっぱい付けている悟天は嬉しそうに言った。

「んだ。おらブルマさに用事があるべ、悟天がトランクスと遊んでる間ずっといてるからな」
「ホントッ!?」
「んだ」

 ニッコリ微笑んで悟天の頭を撫でてやると満面の笑みを浮かべた。

「悟空さ、おら達を送ってくれたら修行でもどこでも好きに行ったらいいだよ。お弁当こさえてあるからな」
「……おう……でも何でそんなにしょっちゅうブルマに用事があるんだ?」

 悟空は怪訝そうに言った。

「おらとブルマさは友達だべ?友達に会いに行ったらいけねえんだか?」
「……そんな事ねえけどよ……」

 何だか納得いかない。

「ブルマさに会うんだべ? 別に浮気するんじゃねえんだから」

 チチは困ったような顔をした。

「あたりめえだ!! 浮気なんかさせねえよ!!」

 悟空は身を乗り出して叫ぶ。

「ねえねえ、うわきって何?」

 無邪気な顔で訊ねてくる悟天にチチは苦笑して、

「悟天は知らなくてもいい事だべ」

 と言った。

「とにかく悟空さ、ブルマさの所に連れてってくれな?」
 
「……わかったよ……」
 真っ黒で大きなその目で覗き込まれて言われれば嫌とは言えない。もとより断るつもりもないのだが。

 ただ、何かあるな、とは野生の勘で感じ取ってはいた。



「どうにも納得いかねえ!!」

 カプセルコーポレーションへ来るなりベジータに捉まった悟空は、重力室でベジータと手合わせをしていた。

「何がだ?」

 休憩中に悟空が突然言うものだから、ベジータは少し怪訝な顔をした。

「チチとブルマだよ。今までこんなに毎日会ってた事あったか?」
「……無かったな……悟天が産まれる時はしばらく貴様の家に泊り込んでたみたいだが……それ以外はこんなに毎日会ってた事は無いな」
 
 そう言われてみればそうかも知れない。

 最近毎日のようにブルマとチチは会っている。しかも応接室ではなく、自分も立ち入らない、ブルマのプライベートルームでだ。

「……何かあるな……」
「オメエもそう思うか!?」

 悟空は身を乗り出した。

「そう言えば、悟飯の彼女の何とかって女もよく来てるみたいだが……」
「ビーデルかっ!?」
「それに18号も……」
「18号までっ!?」

 ビーデルどころか18号までよくここへ来ているとは……。

 これは絶対に何かある。

 悟空とベジータは顔を見合わせた。



「え? ビーデルさん、今度の週末もダメなんですか?」

 放課後、悟飯は教室で教科書を片付けながらビーデルに言った。

「ええ、ちょっと忙しいのよ。ごめんなさい、悟飯君」

 ビーデルは申し訳無さそうにしている。

「……いえ、いいんです」

 悟飯は笑って答えたが、何か釈然としない。

 この間の休みも、その前も、ビーデルは忙しいと言って会えなかったのだ。

 毎日学校で会っているし、それなりに青春というものを謳歌してはいるが、休みの度にこうも断られては何かある、と思ってしまう。

 だけど追求する根性がない。こういうところは一体誰に似たんだろう?

 両親ではないな、と思うが、考えたところでどうしようもない。

 とにかく、浮気でない事だけを願う悟飯だった。





 ビーデルは一体どうしたというのだろうか?

 自分に何か隠し事でもしているのだろうか?

 悟飯は夕食の後、日課である予習をしていても、ビーデルの事が気になって身に入らない。
 
 胸の奥がモヤモヤとして、何だかもの凄く気持ちが悪い。

 ビーデルの目がずっとこちらに向いていないと我慢出来ないのか?


 彼女は誰と何をしているのだろうか?

 もしそんな相手がいるとするならば……そのどこの誰ともわからない相手に対して妙な嫉妬心に火が灯るのがわかる。

 それが男なら当然だが女友達であっても…・・・。

 自分はこんなに独占欲の強い人間だったのだろうか?
 
 悟飯はそんな自分に自嘲気味な笑みを浮かべた。
 


「悟飯」

 すると、背後から自分を呼ぶ声がした。

「はい?」

 悟飯が振り返ると、いつになく神妙な顔付きの悟空が部屋の入り口で立っていた。

「ど、どうしたんですか?」

 悟空のただならぬ様子に、悟飯にも緊張が走る。

 またも地球滅亡の危機に巻き込まれたのだろうか?悟空がこんなに深刻な顔を見せる時は決まって強大な敵か何かが現れた時だ。

「……悟飯……チチが変なんだ……」
「へ?」

 もう一つあった。自分の事でいっぱいだったから、悟飯はすっかり忘れてた。

 父が深刻になるもう一つの理由。それは母の事だ。

 悟飯は脱力し、お母さんの事になるとこんな顔するよな…なんて嘆息した。

「チチがなんか隠してるみたいなんだっ!!」

 握り拳を作り、悟飯に訴える悟空。

「そりゃ、お母さんだって隠し事の一つや二つ……」
「いやっ、夫婦は隠し事しちゃなんねえって、結婚したばっかの頃にチチが言ったんだ!!」

 それを律儀に信じてるんだお父さん……なんて思っても、こういう人だからお母さんの言う事を鵜呑みにするんだよな……。

「で、どうしてそう思うんですか?」

 とりあえず話を聞いてやろうと、悟飯は悟空に訊ねた。

「毎日のようにブルマん家に行って、二人でコソコソ何かしてるみたいなんだ」
「それだけ?」
「十分じゃねえか?」

 悟飯の半ば呆れ気味の返事に、悟空はキョトンとしている。

「お母さんとブルマさんがコソコソ何かしてたって、別にお母さんが浮気してるワケじゃないんだし、どうって事ないんじゃ……」
「ビーデルが絡んでてもか?」
「ビーデルさんがっ!?」

 悟飯は思わず椅子から立ち上がっていた。

「やっぱオメエも何かあるんか?」
 悟空は自分に掴みかからんとする悟飯に訊ねた。

「……え?」

 意外と鋭い悟空。悟飯は顔を赤らめ、もう誤魔化しきれないかな…と思った。

「……実は……」
 
 悟飯は何だか釣られるがまま、ビーデルの事を話してしまった。

(あれ?僕、何で全部話してるんだ? ……お父さん、意外と油断できないかも……)

 なんて悟飯が考えてる横で、悟空は神妙な顔でうーんと唸っていた。

「ぜってえ何かある……」

 悟飯は父が確信めいたものを感じている姿を見て苦笑した。

(お父さんって、何でも『まいっか』で済ませるのに、お母さんの事となるとそうじゃないんだよなぁ……突き止めるまでしつこいっというか……)

 それにしても……

(僕……お母さんに対して嫉妬してたのか?)

 悟飯は急に恥ずかしさが込み上げてきた。
 



vol.3に続く
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